はじめに
公平な観点で次のテーマを探し出す
「最近では、金融機関の運用部署の担当者でも四季報を辞典だと思っている」と木村さんは嘆きます。必要な時だけ四季報を取り出して、目当ての銘柄だけを見ており、木村さんのように全銘柄に目を通していない、というわけです。
木村さんによると、最近は個人投資家だけでなく、プロの運用担当者も自分で銘柄を発掘することを怠っているといいます。各社のアナリストが大量のレポートを出しており、投資先の選別にあたっては、アナリストなどから与えられた情報にイエスかノーか、反応すれば良いだけになっているからです。
そのため、最近であればAIや自動運転のテーマに合致する銘柄ばかりが注目される結果になっているといいます。しかし、投資において他者に先駆けるには、多くの人が注目する前に「次の市場テーマ」を探し出すことが肝要です。
そのためには、独自の観点が不可欠。その時に役に立つのが、四季報の公平性だといいます。四季報では掲載分量がどの銘柄も均一であるため、たとえばトヨタ自動車も、時価総額10億円程度の会社も、同じ分量の情報が掲載されています。それゆえ、今はまだ注目されていない、次のテーマが見つけやすいそうです。
「新春号」「春号」の業績予想に注目
では、木村さんは四季報のどんなところに注目して読んでいるのでしょうか。夏号(6月発売)や秋号(9月発売)では数字はあまり気にしていない半面、新春号(12月発売)と春号(3月発売)では業績予想の数字をかなり気にしているといいます。
多くの上場企業が採用している3月期決算だと、夏号や秋号はまだ決算期が始まって間もない段階の情報しか載っていません。一方、新春号や春号になると、決算期も半年以上が経過しており、当期の着地も見えてくる段階。そうなると、前述の「独自予想」が精度を増し、威力を発揮してくるというのです。
また、四季報を楽しむためのコツとして、メリハリを持った読み方があるといいます。何しろ、四季報には約3,600社の情報が載っているため、すべてに同じ労力を費やして読み込むのは素人にとってはかなりの重労働です。
木村さんは「2000~4000番台は中小型銘柄が多いので、投資の勉強になります」と解説します。一方、8000番台は金融など、個人投資家には読みこなすのが難しい銘柄が多いので、それほど真剣に読む必要はないといいます。
自分に合った読み方のマネからスタート
「早く読むのが必ずしも得策だとは思わない」とも木村さんは説きます。かつては、四季報の発売日に一部の銘柄の株価が大きく変動する「四季報相場」と呼ばれる現象がありました。しかし、今は出版元の東洋経済が発売前にオンラインなどで情報を先出ししているので、四季報相場は生まれにくくなっています。
むしろ、じっくりと四季報を読み込み、自分の投資スタンスに合った銘柄を探し出すほうが、中長期の投資では有効だといいます。木村さんは、四季報の文章の中から、外部環境に左右されにくく、ストック型のビジネスから安定的に利益が上がるモデルを構築できていることが感じられる銘柄を抽出しているそうです。
木村さんの四季報には付箋がみっちり貼られている
こうして気になった銘柄には、3色の付箋を貼っていきます。どの色をどう使い分けているかは企業秘密ということで教えてもらえませんでしたが、付箋を貼っておくことで、新しい号が出た時、前号からの引き継ぎチェックが可能になるといいます。また、付箋は好きな時に貼れるよう、四季報の最終ページに大量にストックしておくそうです。
四季報の読み方は人それぞれ。自分に合っていると思う読み方を参考にして、独自の活用法を探し出すのも、楽しみ方の1つなのかもしれません。