はじめに
相続した不動産が売ることも貸すこともできず、ただ維持費を払い続けるしかない状態に――。そんな不動産の“赤字相続”。前回の「特定空家」に続き、今回は「賃貸用不動産」をめぐるお話です。
借り手がつけば家賃収入が得られる、賃貸用不動産。いわゆる“不労所得”の1つとされ、相続できるのはうらやましい限りです。しかしそこには、大きな資産であるがゆえの難しさが潜んでいました。
兄弟で物件をどう分ける?
「正直、これからは家賃収入で食っていけるわ~なんて、甘く考えていましたね」
こう苦笑いをするのは石川大輔さん(43歳・仮名)。東京に住むフリーランスのカメラマンです。一昨年に父親が亡くなり、相続を経験しました。
大輔さんの父親は個人で不動産業を営んでいました。バブル期にはマンションを1棟丸ごと売買するなど、その豪快な手腕は界隈でも有名だったそうです。
そんな父親も、年齢とともに事業を縮小。亡くなった際に所有していた不動産は自宅を含めて3件でした。東京の自宅マンションが1件、貸しに出しているワンルームマンションが1件、そして大阪市内の貸店舗が1件です。
大輔さんには弟が1人います、翔さん(38歳・仮名)です。大輔さんいわく「自分と真逆」の弟だそう。会社に勤め、結婚をし、現在2人の娘がいるそうです。大輔さんも姪っ子たちをかわいがり、とても仲の良い兄弟だったとか。
しかし、相続となると話は違ったようでした。父親は遺言書を残していなかったため、この3物件をどう分けるかを兄弟で決めなければなりません。早速、ある物件について意見がぶつかってしまいました。
相続配分の決定権を持ったのは……
ここで、対象物件を詳しく見てみましょう。
(1)東京 23区内 マンション(3LDK) 約80平方メートル(父親の自宅)
(2)東京 23区内 マンション(1R)約28平方メートル(賃貸中)
(3)大阪 中心部 貸店舗(2階建)延べ床面積約90平方メートル、土地60平方メートル(賃貸中)
2人の意見がぶつかったのは(1)3LDKマンションです。都心一等地にあるこのマンションは、資産価値もかなりのもの。貸しに出しても売りに出しても、かなりの収益が見込めます。当然、大輔さんも翔さんもこの物件を欲しがりました。
翔さんは家族4人でこの家に住むと主張します。とはいえ超優良物件、大輔さんもそう簡単には譲れません。なかなか進まない話し合いに、出てきたのは翔さんの妻でした。
「これまで義兄さんが好き勝手やってきた間、義父さんのお世話をしてきたのは私たち家族です」(翔さんの妻)
フリーランスでさまざまなところを渡り歩いてきた大輔さん。父親の体が弱っても、あまり実家に足を運ぶことはありませんでした。確かにその間、実家を訪れ面倒を見ていたのは翔さんの妻です。大輔さんはやむなく引き下がるしかありませんでした。
それでも、引き換えに残りの2物件を手にします。大きくはありませんが、それぞれ東京・大阪の中心地にあり、借り手もついています。このまま家賃収入が得られればと、大輔さんも気を悪くはしませんでした。
しかし、そこで問題となったのが相続税です。