はじめに

相続税の納付期限は10ヵ月

相続税は相続が発生した日から10ヵ月以内に申告・納付しなければなりません。借り手がついている賃貸物件の場合、通常よりも評価額が下がります。また「小規模宅地等の特例」など、一定要件を満たす場合にはさらに評価額が減額できることがあります。

とはいえ、不動産はそもそもが高額なもの。大輔さんの場合も2つの物件合わせて約1,500万円の相続税を納付する必要がありました。翔さんとの相続配分が決まった時点ですでに半年が経過しており、税額に足る現金を持ち合わせていなかった大輔さんは、早々に物件を売って現金を工面しようと考えました。

大輔さんは近場ということもあり、(2)東京の賃貸物件を残したいと考えていました。そのため、(3)の店舗物件を売る準備にかかろうと大阪に出向きます。すると、そこで新たな問題が発覚しました。

待っていたのはズブズブの賃貸借契約

大阪の店舗物件は市内中心の商店街にあります。物件を借りていたのは父親の友人、Aさんでした。長年この場所で中華料理店を営んできましたが、高齢に加え、物件の所有者が父親から大輔さんに替わったこともあって、店を閉めることにしたと言います。

そして何とAさん、店の食器やら機材やら、何から何までそのままで出ていこうとします。いやいや待ってくれと大輔さん、Aさんに“原状回復”を求めます。しかし、Aさんは「もともと全部ここにあった、俺は知らん」と言うのです。

さらに賃貸借契約書を見ると、退去時の原状回復費用の負担について明確に書かれている箇所がありません。どうやらAさんが友人ということもあり、父親がきちんと取り決めをしないまま、使わせてしまっていたようです。

困り果てた大輔さん。しかし、相続税の納付期限が迫ってきます。仕方なく東京に戻り、(2)のワンルームを売ることにしました。幸いなことにすぐに買い手がつき、なんとか相続税の納付を期限内に行うことができました。

そうこうして大阪に戻れば、案の定、Aさんの姿はありません。残ったのは長年にわたる中華の油を吸った店舗。結局、大輔さんの自費で店舗の清掃をしたそうです。

抜本的な解決策は「親子で話そう」

このケースについて、不動産コンサルタントで自身も不動産会社を経営する高橋正典さんに話を聞きました。

高橋: どんなに仲がいい兄弟でも、相続となると揉めてしまう話はよく聞かれます。それぞれが家庭を持ったり、親の介護負担などが関わってくると、決めるのはさらに難しくなってしまうようです。


ですので、できるだけ親が元気なうちに話をして、誰が相続するのか、どう活用するのかなど話し合っておきましょう。今回のように賃貸用不動産をお持ちの場合は特に、その契約状況なども含めて親子で話し、子世代が把握しておくことをお勧めします。


旭化成ホームズによる「実家の相続に関する意識調査」では、親世代の54.7%が「誰が実家を相続するか決めていない」と回答している一方で、71.2%の親世代が「今の家の将来について子供と話したい」と回答しています。話しにくい話題ですが、話せない話題ではありません。

現在、大輔さんは大阪の物件を売りに出しています。不動産業者によると、商店街はなかなか買い手がつきづらいが、大阪中心部なので価格を下げれば売却できるだろう、とのこと。大輔さんが負担した店舗清掃と機材廃棄の費用はおよそ30万円だそうです。

「もう売れればいいですよ、売れれば」と大輔さん。相続配分を決めて以降、翔さん一家とは疎遠になっていると話します。

継ぐ資産があり、継ぐ人がいる分、その分け方を決めるのは難しいようです。まずは元気なうちに親子兄弟で話し合う。これこそが明るい家族の相続につながるのではないでしょうか。

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