はじめに

既存業態の半分の人員で運営可能

東京シャツは、なぜこの新業態を出店したのでしょうか。鈴木社長は2つの背景があると説明します。

1つは、ショッピングセンター(SC)などの商業施設の飽和と、SC内での競合激化です。東京シャツがSC内に出店を始めたのは、今から20年ほど前。当時はSCに店を構える競合が少なかったため、ほぼ独占状態だったといいます。

しかし、現在は多くの同業がSC内に出店。事業環境は厳しさを増し、2016~2017年に出店した店舗はなかなか計画取りに売り上げが上がらない状況だそうです。「ワイシャツを購入していただけるお客様の多いところに効率的に出店していきたかった」と、鈴木社長は話します。


JR新橋駅の目と鼻の先という抜群の店舗立地

その一方、折からの人手不足によって、スタッフの採用も難しくなっていました。特に地方部では、せっかくSCに空きテナントがあっても、スタッフの確保が厳しいというケースが増えてきたといいます。

東京シャツの既存業態では平均の売り場面積が20坪のところを4人のスタッフで運営していますが、新業態では5坪を2人で回せます。既存店舗の平均年商は新業態の目標年商と同じ6,000万円。つまり、半分以下の態勢で、既存店舗並みの売り上げを上げる計画となっています。

ショールーミングの流れに一石

なぜ、こうした新業態が可能になったかといえば、NFCを採用して、スタッフの業務負担を軽減させたからにほかなりません。しかし、客がECで購入した場合、店舗での売り上げにはならないので、店舗売り上げに連動する形で賃料収入を得ているデベロッパーは難色を示すのが業界の常識です。

実際、小売業界では、店舗で確認した商品をその場では買わずに、ECで店舗よりも安い価格で購入する「ショールーミング」によって収益が悪化しているとして、懸案事項となっています。東京シャツの戦略は、こうした現状を逆手に取った策だといえます。


新店舗について説明する、東京シャツの鈴木社長

それでは、なぜデベロッパーはある程度のECへの流出を前提とした新業態の出店を“良し”としたのでしょうか。「将来性も考えて、理解を示していただけた」と、鈴木社長は説明します。

デベロッパー側の真意を推し量るとすれば、NFCが話題になって来店客数が増え、店舗での販売も伸びてくれれば、連動して賃料収入が得られる、ということなのかもしれません。

鈴木社長は「今回は良いめぐり合わせで出店ができました。既存店でも“同様の要件”がかなった場所では、業態変更もありうる」と色気を見せます。この場合の「要件」とは、デベロッパーの理解、を意味しているようです。

「新店の動向を見ながら、チャンスがあれば積極的に考えていきたい。これまで出店場所となりえなかった場所にも展開できると考えています」(鈴木社長)。ECの隆盛という逆風を追い風に変えることができるか。新業態1号店の成否は、小売業界全体にとっても大きな関心事となりそうです。

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