はじめに
新カードの想定ターゲットは?
ただ、今回の刷新に伴う最大の変更点となると、会員受付の“門戸開放”だと考えられます。
通常、プラチナカードを取得するには、そのカードブランドのゴールドカードを保有し、一定額以上の利用があった人に対して、カード会社が招待する、という手順が必要です。しかし、アメックスの新プラチナカードは、カード会社から招待に加え、既存会員や提携金融機関による紹介、対面営業、専門の問い合わせ窓口での招待でも取得できるのです。
事前にアメックスのゴールドカードを保有する必要はなし。基準となるのは、プラチナカードを持ってもらうにふさわしいライフスタイルを送っている人、だといいます。この「ふさわしいライフスタイル」には、次の3パターンがあるようです。
1つは、グローバルに活動している人。この場合、総合商社や外資系企業の人を指しているわけではなく、余生にLCC(格安航空会社)で何度も海外旅行に出かけるシニアも対象だといいます。LCCは空港ラウンジを持っていないので、プラチナカードとの相性が良いというわけです。
2つ目は、多忙を極めるビジネスパーソンで、直前まで予定が組めないけれど、プライベートも大事にしたい人。たとえば、プライベートの旅行でホテルを予約した場合、格安プランで予約すると、1ヵ月前からキャンセル料がかかるケースもあります。ところが、アメックスのプラチナカードを使えば、さまざまな特典が付いたうえで、ホテルの正規予約と同じポリシーで、期近まで手数料なしでキャンセルできるわけです。
3つ目は、クレジットカードを「コスト削減の道具」ではなく、「人生を豊かにするための投資」だと考えている人。かつてはカード保有者に社会的なステータスを求めていた側面が強かったという反省から、逆にどうすればカードの価値を見いだしてもらえるか、検証したい狙いがあるようです。
実は、今回の“門戸開放”の狙いも、この3番目のターゲットと深い関わりがあります。
新カードに秘めたアメックスの戦略
アメックスが日本にプラチナカードを導入した25年前は、どちらかといえば「一見さんお断り」という時代でした。しかし、昨今の世界的な潮流として、もう少しラグジュアリーカードの間口を広げていこうという動きが広がっています。
そうした中で、まずはどういう人がプラチナカードの価値を見いだし、どれだけ活用してもらえるのか検証したい、というのがアメックスの計画です。そのための指標となるのが、顧客満足度の裏返しでもある「退会率」。当面は「会員数を倍にしたいとか、収益を拡大したいといった狙いはない」(清原社長)と断言します。
「われわれがプラチナカードに込めた価値観やクオリティが伝わって、対象を広げたとしても、サービスの質が下がらないことが確認されれば、枚数や収益について考えていきます」(同)
新プラチナカードについて力説する清原社長
今後のプラチナ会員数の増加を見据え、アメックスでは現在9ヵ所のセンチュリオン・ラウンジを11ヵ所まで増やすなど、さまざまな面でキャパシティの増強を進めています。「クオリティレベルが下がらないのを確認しながら、追加的なベネフィットを提供して、顧客を囲い込んでいく」(同)という青写真を描きます。
今後については、デジタル対応の強化を計画。たとえば、会議中で電話ができないけれど、レストランの予約を変更したい時などを想定し、デジタルでセルフでコンシェルジュと同等のサービスを提供できるようにしたい、といいます。
「プラチナカードはアメックスが商標も持っているフラッグシップ商品。次の25年のアメックスブランドを占う試金石でもあります」と意気込む清原社長。キャパシティの増強と会員数の拡大という“両輪”を、うまくかみ合わせられるか。アメックスのハンドルさばきが試されています。