はじめに

労働のバブル語(1)デューダする

次に分析するのは労働分野です。バブル時代、労働関連の流行語がアルバイト情報誌や転職情報誌から登場しました。

まず注目したいのは「フリーター」という言葉。これはフリーアルバイターを略した言葉。その厳密な出自については諸説が存在するのですが、普及の契機がアルバイト情報誌『フロム・エー』(リクルート)であったことは間違いないでしょう(初代編集長の道下裕史が造語して1985年ごろから使い始めたとされている)。この言葉は今では辞書に載るほど一般化しました。

バブル時代、フリーターは「社会に縛られない自由な生き方」としてもてはやされていました。しかし現在では、そのようなイメージは薄れているようにも思われます。それどころか「就職できない人」などのネガテイブなイメージも付いてしまいました。このようなイメージの変化にも、バブル崩壊が大きな影響を与えたのです。

一方、バブル期には、転職に関する流行語にも存在感がありました。例えば89年創刊の転職情報誌『デューダ』(学生援護会、現パーソナルキャリア)の影響で「デューダする」という言葉が登場。同様に80年創刊の女性向け転職情報誌『とらばーゆ』(リクルート)からは「とらばーゆする」が、さらに89年創刊の女性向け転職情報誌『サリダ』(学生援護会)からは「サリダする」という言葉も生まれました。いずれも「転職する」ことを意味します。

このような転職系の流行語が登場したことの背景には、労働市場の売り手市場化や、男女雇用機会均等法(86年施行)による女性の社会進出などの状況もあったと思われます。

もっとも転職系の流行語は、その後、死語になっていきました。

労働のバブル語(2)3K

さて労働関係のバブル語としてもうひとつ指摘したいのが「3K」。きつい、汚い、危険な仕事を意味します。

この言葉が登場したのも、やはりバブル時代のことでした。例えば『増補新版 現代世相風俗史年表 1945-2008』(世相風俗観察会、河出書房新社、09年)の89年の欄には「3K労働」との項目が登場。「キケン・キタナイ・キツイの『3K労働』は外国人労働者や外国人留学生(就学生)の手に委ねられる」といった具合に、この言葉を説明していました。

ところで当時3Kは「若者の問題」として把握されていました。例えば91年版の『現代用語の基礎知識』(自由国民社)に登場した「3Kヤング」の項目(執筆者はジャーナリストの角間隆)ではこんな指摘が登場します。

「(3Kの仕事に付きたがらない若者は)自ら艱難辛苦に立ち向かって行こうとする気概をなくしつつあると言われている。3Kを避けていて果たしてどれだけの展望が開けるというのか?」

しかし3Kを避ける傾向は、現在までずっと続いています。バブル崩壊後の就職難の時代においてもそう。ましてや、労働力不足が叫ばれている現代においては一層深刻な問題になっています。つまり3Kとは、当時の若者に固有の問題などではなく、バブル以降の労働市場における長期的傾向だったわけです。

――ということでバブル語特集の第1回はここまで。次回は、不動産と消費の言葉を取り上げる予定です。

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