はじめに
スタジオアリスの沿革1:こども写真館事業の拡大とDPE市場からの撤退
親子を笑顔にするスタジオアリスのサービスは、どのように生まれ、成長してきたのでしょうか。有価証券報告書の【沿革】を見てみましょう。
1974年5月 | 商業写真事業を目的として設立 |
1974年9月 | DPEショップ1号店として福島店を開店 |
1981年6月 | チェーン本部を設立 |
1992年10月 | こども写真館1号店を出店し、こども専門写真スタジオ事業に進出 |
1998年5月 | こども写真館100号店を出店 |
2000年3月 | 新人教育のための研修センターを設置 |
2001年3月 | ディズニーキャラクター使用に関する包括契約を締結 |
2001年7月 | DPE事業より撤退 | 2002年6月 | ジャスダック市場上場 |
※スタジオアリスウェブサイト IR情報 有価証券報告書より一部抜粋
スタジオアリスの創業は1974年で、当初はDPEショップとして営業を開始したことが分かります。こども写真館1号店を出店したのは1992年。6年後の1998年にはこども写真館100店目を出店するところまで成長しました。
2001年にはウォルト・ディズニー・インターナショナル・ジャパン株式会社(現ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社)とディズニーキャラクター使用に関する包括契約を締結し、同年7月には、キャラクターを活用した撮影を開始します。同時に、スタジオアリスは、ある英断を下しています。冒頭で述べた通り、2000年ごろは市場規模5000億円と好調だったDPE事業から、2001年に撤退したのです。
事業の成長には、選択と集中が欠かせません。スタジオアリスは、ここで、写真館事業に経営資源を集中させたと考えられます。翌年2002年にはジャスダック市場への上場も果たしています。写真館事業の推進には設備投資が欠かせませんから、上場により資金調達が容易になったことも、事業拡大に役立ったと考えられます。
スタジオアリスの沿革2:ペットから歌舞伎まで
株式公開後のスタジオアリスの【沿革】と、同時期の売上高を一覧にしたのが、以下の表です(売上高 単位:百万円)。
2003年9月 | ペット写真館第1号店「スタジオわんわんアリス」を出店 | 16,405 |
2004年6月 | 東京証券取引所市場第一部指定 | 19,070 |
2006年1月 | 衣装のデザインから生産・店舗への供給までの体制を確立するため、株式会社マリモの株式を取得し子会社化 | 25,950 |
2010年1月 | 和装衣装の企画,製造等を内製化するため、株式会社豊匠の第三者割当増資を引き受け子会社化 | 32,840 |
2012年11月 | 大人写真館第1号店「GRATZ」を出店 | 33,794 |
2013年4月 | 歌舞伎座タワー内に、歌舞伎の舞台衣装を身に付けて撮影できる歌舞伎写真館 GINZA KABUKIZAを出店 | 35,366 |
2013年7月 | 新しいコンセプトのこども写真館「HALULU」を出店 | 2015年3月 | 赤ちゃん専門写真館「スタジオアリスBaby!」第1号店を出店 | 38,141 |
※スタジオアリスウェブサイト IR情報 有価証券報告書より一部抜粋
スタジオアリスの大きな魅力のひとつである「こどもの衣装」を安定的に供給するための子会社化や、こども写真館以外の事業への進出など、さまざまな活動が読み取れます。
また、七五三の時期に撮影が集中することを避けるために「日焼けする前の七五三撮影」を推奨する、七五三以外のシーンでの撮影を提案するなど、経費を抑えて売上を伸ばすための地道な企業努力も合わせて行われてきました。
新たに展開するペット撮影や歌舞伎写真館は、こども写真館以上にニッチな分野と言えるでしょうが、「そこでしかできない」サービスを提供することで、家庭で可能な撮影・現像と一線を画し、写真館ならではの魅力を出しています。
今後、日本は少子化が進みます。事業を継続し、拡大するためには、こども写真館に限定した事業展開だけでは難しい時期が来るでしょう。上記のような多様な写真館の開設や海外展開を視野にいれる必要は高まると考えられます。今後の展開も要注目です。
消費者の関心は「モノからコトへ」移行していると言われます。スタジオアリスが販売しているのは、七五三の写真という「モノ」だけではないのかもしれません。特に子どもは、豪華なドレスを着る非日常体験という「コト」こそがスタジオアリスの魅力と感じているのではないでしょうか。
筆者が子どものころは、スタジオでの写真撮影は、楽しいというよりは息苦しく緊張するものでした。スタジオアリスは、そのような状況を変化させ、「楽しい写真撮影」という思い出を親子に残してくれます。
時代の変化に合わせたサービスを提供してきたスタジオアリス。子どものころ、スタジオアリスで写真を撮影してもらった子どもたちが成長し、自らが親になるころには、社会における写真の位置づけそのものが変化しているかもしれません。