はじめに

訪問することで見える「隠れたリスク」

2018年6月からスタートした「訪問型産後ケア」は助産師が産後6カ月までの産婦宅を訪問し、授乳についての相談などに乗ってくれます。「授乳で寝不足だし、外出する気力もない」という人も少なくないなか、家までやってきて相談に乗ってくれるのは産婦にとって心強いこと。また、「訪問することで家庭の状況も把握しやすくなる」と、米山教授。「イライラが止まらない」という産婦の話を聞いたところ、出産したばかりの子ではなく、上の子に対して怒りを溜めていたという例もあったそうです。

不安や孤独を感じていても「自分は大丈夫」と考え、1人で頑張ってしまう人もいるでしょう。でも、専門家が話を聞き、その目で判断することで、隠れたリスクを見抜くことができます。行政側も、報告を受けることで改めて対策が取れるというわけです。

また、2018年4月からスタートした「電話相談」は、ケアの対象が産後1年と長いのも特徴。一般的に産後と言われる産褥期は産後6〜8週間と短いですが、「1歳になる頃には卒乳や断乳という乳房に関わる問題や、離乳食など新たな悩みも。また、離乳食がうまくいかないと一言で言っても、完璧にやろうと思ってできないのか、それともただやり方が分からないのかを明らかにする必要があります」(米山教授)。そのため、生後1年を産後と捉え、専門家がサポートすることが重要だと米山教授は説きます。

育児に対する漠然とした不安から、子どもが寝ない、訳もなくイライラする、離乳食が進まないなど、悩みの内容や時期は人それぞれ異なるもの。でも、その時々で的確なアドバイスを得ながら悩みを解消することで、「産後」という長くて暗いトンネルから抜け出せることができるのかもしれません。

「切れ目のない支援」が産婦を救う

出産は、産んだら終わりではありません。産前・産後と「切れ目のない支援」が重要になってきます。そのためには、「出産前から産後うつのリスクがある人を抽出することも必要」と米山教授は話します。米山教授と同大学は、産後うつのリスクを客観的に診断するスコアの開発にも取り組んでいます。

東京医療保健大学大学院医療保健学研究科の米山万里枝教授

産後うつという言葉が広まることで、産前から過剰に心配してしまう人もいるかもしれません。「でも、出産直後はホルモンバランスの変化でぼーっとしてしまったり不安を感じてしまうのは普通のこと」と米山教授。それでも悩みが消えないときは、一体どうしたらいいのでしょうか。

「まずは出産した病院に相談をしてみるといいでしょう。また、各自治体の訪問事業などを調べて活用することもおすすめです」

 自治体によっては産後ケア事業を行っていないところや、産後の女性に対する知識が少ないところもあるでしょう。「勇気を振り絞って相談をしても、そっけない対応をされて嫌な思いをすることもあるかもしれません。でも、めげずにぶつかっていけば、必ず道は開けるはずです」(米山教授)。

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