はじめに
埼玉県北本市に芸能人も隠れて通う、人気のクッキーショップ「クッキー クル」があります。どこか北欧を感じさせる空色のドアが目印のお店です。1階はお菓子の販売、2階は焼きたてのクッキーと共にコーヒーや紅茶が楽しめるイートインスペースとなっています。このお店の店主である尾上由子(オノウエナオコ)さんは、全くの異業種から修行経験なしでクッキー職人に転身しました。
「女性の働き方」に関心が高まる中、趣味から仕事へ、そして子どもの頃に1度は憧れる“お店屋さん”を開いた尾上さんに、気になるお金のこと、開業のきっかけやお店を続けることの難しさなど、好きを仕事にした女性の本音を伺いました。
開業資金は親から、 事業計画書を信用の代わりに
尾上さんは2010年「クッキー クル」をオープンさせ、今年で8年目になります。地元である埼玉県北本市にお店を構えたのはなぜですか。また、開業資金はどのように準備したのですか?
お店を地元に開いたのは単純に賃料が安かったからです。あと、ネット販売で考えていたので、正直、場所はどこでもいいと考えていました。せっかくなので店頭でも販売し始めたら、常連さんも増えてきて、2015年の移転をきっかけに今の店頭販売中心のスタイルに落ち着きました。
開業資金は100万円を目標に、直前は派遣社員として1年間働きました。残りは父親からの借りました。父は銀行に勤めるきっちりした人。ちゃんと事業計画書を作って、プレゼンしてお金を貸してもらったんですよ。
事業計画書は1日の売上はこれぐらいを見込んでいるから、月の売上目標はこれぐらいだとか、初期投資に何を買ってどれぐらいかかるなど、今考えるとあてずっぽうですが(笑)、考えられる限りの内容を盛り込んで10ページぐらいになりました。
この事業計画書は父にお金を借りたとき以外でも自分の「信用」の代わりとして役立ちました。店舗を借りようと行った不動産屋さんは私のことを全然相手にしてくれなかったんです。「98%のお店は失敗する」とか「知り合いの有名シェフの店でも1年で潰れた」とか説教までされて。
確かに29歳の女性が「お店やりたいんです〜」なんて突然やって来たら「大丈夫!?」って思っちゃいますよね。悔しいのと同時に、まずは相手に信頼してもらうことが大切なんだなってよくわかりました。それからはお店の話をするときはまずこの事業計画書を見せるようにしていました。
開店当初は1日どれくらいの注文がありましたか。 ネット販売が中心だったのを店舗中心にされたのはなぜでしょうか。
まずは1日3件受注をいただくことを目標にしていました。それから少しずつ増えて、2年半ぐらいで倍以上にはなっていたと思います。バレンタインデーなど、イベント時には生産可能数を超える受注になることもありました。そのタイミングで人を1人雇いました。
店舗中心になった一つのきっかけは、お客さんから「手土産にちょうどういいお店ができて嬉しい」と言われたことですね。思えば北本にはそういったお店が今までなかったんです。その言葉を聞いて、クルがまさにそんなお店になれればいいなぁと思いました。他にそのようなお店があれば、今でもネット販売を中心に運営していたかもしれません。
偶然にも競合のない場所に出店されたんですね。お客様がお店を訪れる主なきっかけは? また、SNSを活用するなど集客について何か工夫している点はありますか。
基本的にクチコミ頼りです。「知り合いからクッキーを貰って、美味しかったから買いに来た」という方が多いのは嬉しいことです。また、ネット販売を行なっていたことから、県外の友人にお店のことを聞いてやって来た地元の人という方もいて(笑)、それはちょっと面白い特徴かもしれません。
SNSについては、その日お店で並ぶ商品をInstagramでアップしてお知らせするようにしています。他にもFacebook、Twitter、なども使っていますが、一番反応があるのはInstagramですね。投稿につけるコメントは、商品を伝えるだけだと表面的すぎるというか、ちょっとよそよそしい感じになるのが嫌で、その時考えていること、思っていることを少し添えるようにしています。ネットショップは休止中ですが、Instagram上でたまに「限定おまかせセット」を販売することもあるんですよ。