はじめに

不況の“前触れ”が目前に迫る

――米国経済にこれ以上の利上げを受け入れる強さがなくなっていることはわかりました。2019年に訪れるであろう景気減退はどのぐらいのペースになるのでしょうか。金融危機を引き起こす可能性もありますか。

金融危機は予測ができないからこそショックとなるわけですが、次の危機の“芽”になるものがあるとしたら、新興国がドル建ての借金を膨らませていることが挙げられます。

リーマンショック後の世界の民間債務(非金融部門)のGDP(国内総生産)に対する比率をみると、あまり変わっていない先進国に対し、新興国は70%前後から140%前後へと急増しています。これは過剰と言って差し支えない水準でしょう。

FRBの利上げによる米金利やドルの上昇で、最も困るのはドルで借金をしている国や企業です。2018年はトルコリラが暴落した「トルコショック」が印象に残っている人も多いでしょうが、トルコだけでなく南アフリカ、アルゼンチン、ブラジルなども通貨安に見舞われました。

これらの国に共通するのは、自国に入ってくるお金より海外に支払うお金が多い「経常赤字国」であることです。ここでは、利上げで新興国から資金が引き上げられるという教科書通りの現象が起こっており、2019年はこの流れが加速して、耐えられなくなる国が出てくる可能性に注意を払う必要があるでしょう。

――2018年12月には“不況の前触れ”といわれる「逆イールド」が話題になりました。

本来、債券は期間が長いほど持っている人にとってリスクが高いので、期間が長い国債ほど金利が高くなるものです。しかし、それが逆転して、期間が短い債券の金利が高くなる現象が「逆イールド」です。

将来、物価が上がり、これに応じて利上げが重ねられていくと多くの人が考えるなら、長期金利は上昇するのが自然です。逆イールドになるということは、少なくともこれからアメリカの景気が加熱すると思っている人は少数派であり、むしろ減速し、政策金利も低下方向に振れると考えている人が多いことを示唆しています。

2018年12月には3年金利が5年金利を上回る逆イールドが発生して話題となりました。この際に株が急落したのは、これを契機として株式から債券への投資配分を多めにする投資家がいたからではないか、とも言われています。最も注目される2年物と10年物の金利差はまだ逆イールド化しておりませんが、もはや時間の問題という印象はぬぐえません。

過去20年を振り返ると、逆イールドは2000年前後と2006年前後に起こっており、それぞれITバブル崩壊とサブプライム危機、リーマンショックの前兆となっています。いずれも起こってから1〜2年後に、株が急落し不況が始まっていることは無視できない事実です。

米中貿易戦争の出口は見えない

――2019年3月にはブレグジットが控えていますし、米中貿易戦争でも米国が追加関税の引き上げを猶予した90日の期限が到来するのも気になります。

2019年の世界経済を展望する際、米中貿易戦争やブレグジットに目が向かいがちですが、これは重要ながらも本質をついていません。あくまでも「米金利上昇を受けた世界経済の減速」がメインテーマであり、そこに米国の保護主義や欧州における政治混乱は「もともと弱っているところへの追撃」と考えるべきです。

米中貿易戦争に関していえば、猶予とされた90日間で解決するようなことは考えにくいでしょう。保護主義を声高に叫んで大統領に選ばれた経緯を踏まえれば、2020年の再選を目指すにあたって、わざわざトランプ政権がその看板を下ろす理由がないでしょう。

さらにいえば、これはトランプ対習近平の戦いではなく、5G(第5世代移動通信システム)への移行を見据えた、米中のハイテク産業の覇権争いと言われています。たとえ政権が変わっても、そう簡単に終わらせられるものではないと考えるのが自然でしょう。

――投資家はどのような姿勢で新しい年のマーケットに向き合うべきでしょうか。

強気相場では弱気派が少しずつリスクオンに傾いて、じわじわ上昇していくものですが、弱気相場への転換は得てして一瞬です。あっという間にマーケットが悲観で埋め尽くされることを覚えておく必要があるでしょう。

2018年秋に世界同時株安の局面があったにもかかわらず、リスクオフの円高が来なかった理由として、さまざまな要因が指摘されています。その中で最も的を射ているのは「まだリスクオフの局面ではなかった」という答えではないでしょうか。

本物のリスクオフ局面では、株価だけでなく、原油や銅、ジャンク債市場など、あらゆる市場がパニック的に下落します。リスクオフの円買いというのは、そういう時に起きるものです。2018年にはまだそのようなことはおきませんでした。

しかし、2019年はどうでしょうか。2018年末にかけて原油や銅の価格はかなりまとまった幅で下落しています。米金利も下方向へトレンド転換した印象が強いです。

こうした状況下、2019年のドル円相場は1ドル=100~112円のレンジで、年末にかけて徐々に円高方向に向かうシナリオを想定しています。長過ぎたドル高の局面が終わり、その裏側としての円高やユーロ高が到来しやすい地合いにあることは、肝に銘じておきたいところです。

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