前回記事では、生後2週間の愛里ちゃん(当時、仮名)を特別養子縁組で迎えた齋藤和也さん・あかりさん(現在49歳・46歳、仮名、東京都在住)夫妻のケースを通じ、民間事業者の費用面についてお伝えしました。

今回は、子どもを迎える際のもう一つの重要なポイントである「生みの母との関係性」について、考えていきます。


里(サト)さんのお腹から産まれたんだよ

齋藤さん夫妻が、一般社団法人「あんしん母と子の産婦人科連絡協議会」(あんさん協)を通じ、愛里ちゃんを迎えてから4年以上が経ちました。いま齋藤さん夫妻は、愛里ちゃんを実子と同じように自然に育てています。ただ一つだけ、実子育てとは異なる部分があります。それは、愛里ちゃんを産んだ女性との繋がりを、ときどき意識しながら暮らしている点です。

齋藤さん夫妻は、その女性に直接会ったことはありません。しかし、愛里ちゃんが成長したら、自身のルーツを探しながら、アイデンティティを形成するときが必ずくるはずです。そのときのためにも、女性と緩やかに繋がりを持ち続けることが大切だと感じています。あかりさんは、次のように話します。

「普段から『愛里はママのお腹からは生まれていなくって、里(サト)さんのお腹から生まれたんだよ』と言う話はしているんです。里さんというのは、愛里の生みの女性に私たちがつけたニックネームです。愛里を命名するとき、生みの女性が『自分の名前の一文字を入れてほしい』という希望を持っていることを知りました。最初は迷いましたが、よく考えて『里』という文字をいただくことにしました。結果的に、とても良かったと思っています。生みの女性と緩やかに繋がっていくことは愛里の成長にも良い影響を及ぼしますし、生みの女性が愛里を産んでくれたおかげで私たち夫婦も愛里を育てさせてもらっているわけですから」

あかりさんは、愛里ちゃんを託される際、女性から1通の手紙をもらっています。赤ちゃんへの思いが綴られたその手紙は、丁寧な文字で書かれ、複数枚にもわたっていました。

「幸せになってね。離れていても、お母さんはずっと貴女の幸せを願っています」

事情があって育てることはできない。けれども、愛里ちゃんを大切に思っていることが全面から感じられる手紙でした。「手紙を読んだとき、大切な子どもを手放す決意をした女性のためにも、この子をしっかり育てなければと思いました」と、あかりさんは話します。齋藤さん夫妻は将来、成長して大きくなった愛里ちゃんに、この手紙を手渡す予定です。

様々な事情によって産んでも育てられない女性たち

思いがけない妊娠をした女性たちが、子どもを手放す事情は様々です。あんさん協の調査によれば、2013年9月から2018年8月までの間の5年間で、147人の女性から相談があり、その約4割は中学生や高校生も含む未成年の妊娠でした。なかには性暴力被害などの残酷な理由も含まれていました。

育てられない理由の中で目立っていたのは、「経済的理由」(51回答)、「親(家族)の反対」(48回答)、「家族の協力がない」(38回答)などの回答です。妊娠した女性側の事情というよりは、社会的な背景や、周囲からの協力が得られていないことが分かります。男性が逃げ、お腹の中の赤ちゃんとともに置き去りにされた「相手と音信不通」(34回答)、「シングルマザーとして育てていく自信がない」(33回答)などの回答も目立っていました。

2016年の児童福祉法の改正によって、こうした母子への法的保護は強化されましたが、予期しない妊娠をした女性たちへの社会の目線は、いまだに厳しいものがあります。背景には伝統的規範の母性を重視し、女性を「身勝手だ」と見る風潮があるためです。

しかし、見てきたように女性たちは貧困やまだ決して大人とは言えない未熟な年齢、性暴力被害などの結果として、赤ちゃんを身ごもっています。支援が得られない中で悩みを一人で抱え,心中という悲劇に至ることもあります。苦しんだ末に赤ちゃんを放置してしまうこともあります。

政府の調査によれば、2016年度の1年間に児童虐待で命を落とした77人のうち、心中に巻きこまれた子どもは28人。心中以外の虐待理由で亡くなった子どもは49人いて、その約半数の24人は、予期しない妊娠の結果によるものでした(参考:「第9回児童虐待防止対策に関する関係府省庁連絡会議幹事会」 2018年9月28日 資料2より)

この調査を見るだけでも、予期しない妊娠した女性を「不真面目だ」という理由で社会的に断罪させようとすることの怖さが分かります。家族や学校などの周囲が支援することで、あんさん協のような団体、あるいは児童相談所にたどりつき、救われる母子の命が確実にあるのです。