はじめに

生前贈与で父親の財産を減らす

考えられる方法の1つは、前妻の子どもは父親の財産に対して相続権があるのですから、父親の財産を生前に他の現家族へ移してしまうという方法です。

父親の財産は時価1000万円程度の持家と数百万円程度の現預金とのことですが、年間110万円以上の財産を贈与するには贈与税が掛かってしまいますので、自宅を無税で生前贈与しようとすると、約10回に分けて贈与契約書と不動産の登記変更をしないといけません。そうすると、手続きが大変になりますし、その都度お金も掛かります。そのため、ここでは「相続時精算課税制度」という方法を使うことが考えられます。

「相続時精算課税制度」とは?

相続時精算課税制度を簡単に説明すると、一定の手続きをすることによって、複数年の合計で贈与額2500万円までは贈与税が掛からないというものです。ただし、2500万円を超えて生前贈与をすると2500万円を超えた分の20%が贈与税額となります。相続時精算課税を選択し、贈与者である父親が亡くなったときには、相続時精算課税を適用して贈与を受けた財産を相続財産に加算して、相続税の計算を行います。ただし、毎年、暦年贈与ができる110万円の基礎控除の枠はなくなり、一度相続時精算課税を選択すると暦年課税には戻れません。

このため、現在の父親の財産を、例えば、相続時精算課税を使ってすべて母親へ贈与すれば、父親の相続財産はなくなりますので、前妻の子どもへ財産がいくことはありません。贈与後に父親の財産が増える見込みがうすいときや、現在の資産と合わせても相続税基礎控除(3000万円+600万円×法定相続人の人数)までいく見込みがなければ、最小限のコストで実行できるでしょう。

相続時精算課税制度は、相続時の父親の財産が相続税基礎控除より小さい見込みであれば、税金的にはデメリットはありません。ただし、父親からすると、財産が自分のものではなくなるので、財産の所有権がご質問者の母親でも自分でも一緒というくらいの感覚でなければ、抵抗があるかもしれません。

手続きは、税務署に「相続時精算課税選択届出書」を受贈者の戸籍謄本など一定の書類とともに贈与税の申告書に添付して提出する必要があります。また、自宅の名義が変わると登記の変更が必要になります。このあたりの細かい相談や、自分で手続きするのが難しいようでしたら、税理士や司法書士に相談にいただければと思います。

遺言があれば、財産を渡さずに済む?

考えられるもう1つの方法は、父親に「前妻の子以外」に遺産を相続させるという遺言書を作成してもらうことです。ただし、法定相続人には遺留分(いりゅうぶん)という権利があり、前妻の子は遺言で自分の相続割合をゼロとされても、法定相続権の半分は遺留分減殺請求という手続きで他の相続人に請求ができてしまいます。

とはいえ、何もしないよりは確実に前妻の子の相続財産への取り分を減らすことができます。遺言は自筆証書や公正証書などいくつかの方法がありますが、方法のいかんに関わらず、最終に作成したものが有効になりますが、ここでは遺言の内容を明確にし、有効性を高めるため、公正証書遺言を作成しておくとよいでしょう(遺言書の作成に誤りがあると無効を主張される恐れがあります)。また、「相続権の廃除」といい、家庭裁判所へ申し立てて相続権自体をなくすという手続きがありますが、著しい程度に被相続人の財産・精神などに害を及ぼす行為がなければ認められませんので、通常は厳しいと考えておいていいでしょう。

遺留分減殺請求の時効は10年間(法律用語では「除斥期間」と言います)ですので、父親に法的に有効な遺言を残してもらい、相続後、前妻の子どもから10年間に渡って遺留分減殺請求をされなければ、結果として財産は渡らないことになります。

なお、「前妻の子以外」に遺産を相続させるという遺言書があれば、相続の発生を前妻との子に知らせることなく、遺言の通り不動産の相続登記や預金の名義変更ができると思います。遺言がないと父親の戸籍で前妻の子どもの存在が確認されますので、前妻の子どもも含めた法定相続人全員の合意を得た遺産分割協議書がなければ相続手続きが滞ることになります。遺言は法律上の手続きが必要になりますので、より具体的に進めるには弁護士等の法律専門家へ相談いただければと思います。

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