はじめに
「中央経済工作会議」をご存知でしょうか。中国共産党と中国政府が年に1度、翌年の経済政策運営の基本方針を決める会議で、毎年12月に2~3日間の日程で開かれます。
党指導部や閣僚、地方政府や大手国有企業だけでなく、軍の幹部も参加して経済成長率や物価など経済運営の目標を議論する重要会議の一つで、中国の株式市場に与える影響も大きいです。
今回は、2018年12月に行われた「中央経済工作会議」の内容から、中国株式市場の見通しについて考察してみます。
景気重視を一段と鮮明化
昨年の「中央経済工作会議」では、中国経済の現状を「穏中有変、変中有憂」との8文字で示しました。これは「安定成長の中で変化があり、変化の中で不安要素がある」という意味です。
中国は複雑で厳しい外部環境のなか、経済が下押し圧力に直面しているとの見地から、積極財政の強化と適時適度な金融緩和などを実施して「安定化」を図るという事が強調されました。
中国は「以党治国(党を以って国を治める)」という政治体制です。こうした中国共産党の経済運営の目標に沿って、実質的な政策が策定・実施されます。
実際、この上記の方針が採択された直後に中国政府は預金準備率の引き下げを発表し、更なる金融緩和を実施しました。2019年の鉄道投資も過去最高の8,500億元(約13.7兆円)規模まで引き上げる方針を打ち出すとともに、消費刺激策としては自動車・家電の分野で販売補助金などを導入する計画なども明らかにしています。
「5G」投資のテコ入れで国内景気浮揚を狙う
今回の「中央経済工作会議」で注目されるのは、2019年の重点工作任務の追加項目に5Gの商用化を速める事が明記された点です。これを裏付けるように、中国政府は5Gサービス実証実験で使用する周波数帯を、昨年12月に国内通信キャリアに割り当てました。
中国の研究機関の推計によると、中国3大通信キャリア(チャイナ・モバイル、チャイナ・ユニコム、チャイナ・テレコム)の国内の5G投資総額は1.3~1.4兆元(約21兆円)になると見込まれており、これは4G時代を6割上回る規模になるとも指摘されています。また、中国の5G契約数は2025年には米国を超えるとの見方もあり、その国内需要は莫大です。
足元ではグローバルに事業を展開しているファーウェイ(非上場)や中興通訊(763.HK)などの企業は米中摩擦が逆風になっています。中国3大通信キャリアのような国内市場中心のドメスティック企業は、米中摩擦の影響が限定的で、国内景気浮揚の担い手としても期待されています。
こうした点に着目して、5Gネットワーク構築のためのインフラ投資の初期段階で恩恵を受ける銘柄として、「中国鉄塔(ちゅうごく・てっとう:788.HK)」などが挙げられています。
中国鉄塔(788.HK)とはどんな会社?
中国鉄塔は携帯電話と直接電波を送受信する装置の「基地局」を中国国内で運営する企業です。中国の3大通信キャリアが保有・運営していた基地局などのインフラを移管して誕生しました。
通信インフラの運営会社としては基地局数で世界最大。主要顧客は中国の3大通信キャリアです。キャリアの投資額が増加すれば、その恩恵を受けると見られています。
同社の2018年1~9月期決算は売上高が前年同期比6.1%増の536.4億元、純利益が同16.7%増の19.6億元と増収増益を達成。同社が運営する基地局数は同3.9%増の191.7万件、リース件数が同9.2%増の278.5万件と増加。また、基地局1局当たりの平均リース件数も前年同期の1.42件から1.49件に上昇しています。
2019年の注目投資テーマとしての「5G」
5Gは現在普及している第4世代移動通信システム(4G)の後継技術で、第5世代移動通信システムの略称です。2018年末から米国や韓国の一部で5Gの商用サービスが始まり、中国でも2020年の本格導入を目指しています。
5Gは、将来的には自動運転や遠隔医療など、単なる通信を超えた社会基盤になる可能性があると指摘されています。英国の調査会社によると、その経済価値は2035年までに12.3兆ドルに達する見込みです。
世界経済に与えるインパクトは非常に大きい事から、投資テーマとしての「5G」は、中国株式市場だけでなく、米国や日本市場などでも注目度は今後ますます高まって行くと考えられます。
<文:市場情報部 佐藤一樹 写真:ロイター/アフロ>