はじめに
昨年の今ごろは「日経平均が2018年末に3万円へ到達する」といった強気の予想が目立ちましたが、実際は大方の予想を裏切る結果となりました。それを受けてか、今年は全体としてやや慎重な予想が目立ちます。
今回は、この「株価予想」をどう投資判断に活かしたらよいのか、プロの投資家の手法を基に考えてみます。
予想から利益を出すという発想は間違い?
「株価の予想」と聞くと、ある1つの予想を参考に売買の判断を行い、予想した株価に到達したところで利益を確定するというアプローチを想像しがちです。
しかしプロの投資家は、1つの予想にこだわることはありません。彼らは、投資判断を下す上で、少なくとも2つ以上の予想を使いこなしています。その中には「株価が下がる可能性が高い」という内容の予想と、「株価が上がる可能性が高い」という内容の予想が同居している場合も少なくありません。
これだけをみると、私たちは「買うべきか、売るべきかの判断に迷ってしまう」と思ってしまいそうですが、プロの投資家は買う、売るといった判断自体はそれほど重視していません。彼らは予想から利益を出すという攻めの発想ではなく、リスクを適切に管理し、効率的な運用を行うという守りの発想で予想を活用しています。
第一生命保険のように、自社ホームページにてプロの投資家としての方針を提示するプロの投資家もいます。
「許容できるリスクの範囲で株式や外国証券を保有することで、有利な資産運用にも努めています。加えて、きめ細かなリスク管理体制をとることで、リスクのモニタリングを行いつつ、運用効率向上を図っています。」
(出所:第一生命ホームページ『基本的な考え方』より引用)
他のプロの投資家についても、概ね同様の趣旨で資金を運用しています。彼らは、企業の株式を買っている時に「その会社の株価が下がる可能性がある」という予想を目にしたとしても、持ち株を直ちに全部売るということは行いません。彼らは株価下落が起こる確率を踏まえて、その損失が致命的にならない程度までリスクを管理します。
相場はコントロールできないが……
資金を守るために予想を活用する理由の一つとして、「相場はコントロールできない」という考え方があると思われます。
相場では自然災害や企業の不正といった、突発的な出来事で大きく株価が変動することがあります。売買代金が小さい企業の株式であれば、小さい動きですら相場にインパクトを与えかねません。
例えば、Aさんという個人投資家が住宅ローンの頭金調達のために売買代金の小さいB企業の株式を売る、という状況を考えてみましょう。
B企業の株式の売買代金が1日500万円であると仮定した場合、当日の売買代金のうち、Aさんの売りが大半を占めることとなります。流動性によっては、Aさんの売りだけで株価が5%ほど下がってもおかしくありません。
この日、B企業の業績を信じ株価が上がると予想して購入した人々は、B企業とは関係ない要因で損失を被ることになります。それも、Aさんの住宅ローンの資金繰りといった予見がほぼ不可能な売り要因によってです。
このような損失が出ないよう相場を完全にコントロールするには、自然災害を防いだり、Aさんの住宅ローンを差し止めたりという対応が求められますが、私たちにそのような力はありません。このように考えると、「相場をコントロールする」という考え方は、いわば神の領域に立ち入るようなもので、少し傲慢なように思えてしまいます。
リスクはコントロールできる
そのため、プロの投資家は相場をコントロールする代わりに、リスクをコントロールします。投資する金額を上げる、または下げるというシンプルな資金管理が原則です。
コイントスの例で考えてみましょう。それぞれのコイントスで、当初の保有資産のうち1割以上を賭けてしまうと、10連続で予想を外した場合に破産してしまいます。この場合、掛け金を減らすことが破産のリスクを低下させることに繋がります。
10回連続で外す可能性は1024分の1ですが、11連続で外す確率は2028分の1となり、その後も連続で外す回数が増えるに従って倍になっていきます。わずかな賭け金額の減少がこれほどのリスク低減効果をもたらします。
次に、「4回連続でコイントスを外した場合、5回目は必ず当たる」というルールが追加されたとします。このとき、4回より多く連続して予想を外すことはありません。つまり、保有資産の2割まで掛け金を増額することで、破産のリスクを抑えつつ、効率的に賭けることが出来るといえるでしょう。
プロの投資家は資金管理だけでなく、リスク管理対象の資産とは異なる動きをする資産組み入れたり、オプションやデリバティブといった金融派生商品を組み合わせたりすることで、高度なリスク管理を実現している例もあります。
しかし、このようなリスク管理の方法は高度な専門知識と人員が必要であり、個人投資家としては荷が重いでしょう。そこで、巷にある株価の予想を活用して簡易的なリスク管理を行う方法を検討していきます。