はじめに

以前の筆者の記事で「ウォーレン・バフェットが薦める投資法 」をご紹介しました。それは今後も長期的な経済成長が期待できる米国の株価指数であるS&P500に連動するインデックス・ファンドを購入することでした。

今では誰もが当たり前のように低コストで資産運用に活用できるインデックス・ファンド。ではそれを世に送り出したのはいつ、誰なのかご存じでしょうか?


インデックス・ファンドの父、ジョン・ボーグル氏

「インデックス・ファンド」とは、特定の株価指数や債券指数などに連動する値動きをする投資信託のことです。日本では日経平均に連動するインデックス・ファンドが有名です。インデックス・ファンドの特徴は保有コストがとても低いことです。

コストが低い理由は、インデックス・ファンドの場合対象となるインデックスと同じ値動きをするポートフォリオを組めば良いだけなので、個別銘柄の分析などにかかるコストが不要であるためです。

一方、株価指数を上回る投資成果を目指す「アクティブ・ファンド」と呼ばれるタイプの投資信託は、相対的に保有コストが高いことが特徴です。その理由として運用責任者(ファンド・マネジャー)を中心にチームを組んで企業に足を運んで調査をしたり分析をしたりするため、人件費などのコストが多くかかることなどが挙げられます。

そのインデックス・ファンドが世の中に初めて登場したのは、1976年のことでした。現在では世界有数の資産運用会社であるバンガード社がS&P500に連動するインデックス・ファンドを組成しました。

そのバンガード社を創業したのが今年の1月16日に89歳で逝去されたジョン・ボーグル氏です。彼とバンガード社は「余計なコストを掛けずに米国株全体に投資する効果を得られるインデックス・ファンドこそが個人投資家の資産運用にとって最良の手段である」という信念に基づき、インデックス・ファンドを組成しその後も継続的なコスト引き下げに尽力してきました。

低コストを追求し続けるバンガード社

現在バンガード社が運用するS&P500に連動する上場投資信託(ETF)の経費率(保有していることにより1年あたりにかかる投資家にとってのコスト)は「0.04%」です。これは驚異的に低いコストで、同じようにS&P500に連動する日本で作られたインデックス・ファンドを購入しようとすると高い場合「0.5%」程度になる場合もあります。

「0.04%」と「0.5%」。こう見ると大きな差はないように感じるかもしれませんが、保有コストによるパフォーマンスを見てみるとその差がおわかりいただけると思います(下図)。ある投信を30年間保有した場合、保有コストが年率0.04%の場合30年たってもほとんどコストがかからず100付近のところに線がありますが、保有コストが年率0.5%の場合30年後には線が85近くまで減少しています。

もちろん運用対象が異なる商品の場合、投資成績によって最終的な運用成果は大きく異なりますが、投資対象が同じインデックス・ファンドであれば基本的に運用成績に差は生じません。となれば投資家にとって保有コストは低ければ低いほど良いということになります。

金融機関にとってはお客様からいただくコストが収益になるわけですから、多くいただけるならその方がありがたいわけです。だからどうしてもコストが高い商品を販売したり、短期売買を推奨したりと近年一部の金融機関で問題になっているような事象が発生しやすい構図があります。

ところがバンガード社は投資家の利益を最大化すべく低コストの追求を続けています。バンガード社がそれを実践すると当然他の金融機関も顧客獲得競争に負けないために低コストの商品を作ります。こうしてどんどん低コストの商品が世の中に生み出され、投資家にとっては良い環境が整ってきています。

ジョン・ボーグル氏の信念やバンガード社が実践してきた取り組みは個人投資家の資産形成において革命的な変化をもたらしたと言ってよいと思います。ボーグル氏とバンガード社の偉大な功績を心から敬愛し、深く哀悼の意を表したいと思います。

<文:マーケット・アナリスト 益嶋裕 写真:ロイター/アフロ>

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