はじめに

急激な拡がりをみせている「ふるさと納税」をめぐって、自治体では勝ち組・負け組が明らかになってきています。

2015年の控除対象者は約130万人におよび、その認知も拡大。お肉やお米など地域の特産物だけでなく、家電製品など豪華で多様な返礼品を用意し「我が街に寄付を」と自治体間の競争は激化。その過熱ぶりに、総務省は「制度の趣旨から外れないように」と注意を促しています。


ふるさと納税控除対象者 前年比3倍の130万人

“地方創生”を図るために、生まれ育った故郷や応援したい自治体に寄付をする「ふるさと納税」。総務省の調査によると、平成28年度のふるさと納税額は1,470億円(前年比4.3倍)にのぼり、その控除適応者数は約130万人(前年比3倍)と大幅飛躍しました。

2015年から寄付控除額が2倍に拡充されてお得になったことや、寄付先が5自治体までなら確定申告が不要の「ワンストップ特例制度」がスタートし、今までよりも手続きが簡素化された影響で大きく数字を伸ばしました。

それに加えて、豪華な返礼品がふるさと納税の盛り上がりに拍車をかけます。

ふるさと納税の情報をまとめるポータルサイトのランキング上位には、A5ランクの和牛やカニなどの海産物、コシヒカリやみかんなど豪華な返礼品が並びます。その土地に思い入れがあるから寄付をする、というよりは、返礼品目当てで寄付先を選んでいる人も少なくなさそうです。

世田谷区では保育園5園分の減額

寄付者の多い都市部の自治体は、税収の大幅な減額に頭を悩ませています。

居住している自治体に住民税や所得税として納める税金は、ふるさと納税を行うことで“応援したい”自治体に寄付されます。各自治体はふるさと納税を行った住民に対して、税金を軽減する措置をとらなければならないためです。

総務省の調べによると、寄付控除額が多い都道府県の1位が東京都で262億円。次いで神奈川県103億円、大阪府86億円と並びます。

東京都23区では、世田谷区16.5億円、港区15.6億円、江東区7.5億円が大幅な減収。

最も減収額が大きかった世田谷区の保坂展人区長は、2月2日に記者会見を行い、「控除額の16億円は保育園5園分の整備費にあたり、平成29年度はさらに増えておよそ30億円になる」という見通しを明らかにしました。これは学校改築1校分の費用にあたると言います。

また、「この影響額がさらに拡大すれば、持続可能な公共サービスの維持に支障をきたすことは明らか」と指摘します。

保坂区長は、熊本や東北など被災した自治体に対しての寄付は「必要な制度である」と理解を示した上で、23区は地方交付税の不交付団体で国からの補填がなく、「ここまでのゆがみが出てきていることについて制度の是正に向けた策を講じるべきだ」と危機感をあらわにしました。

町民税の8倍にのぼる寄付額が

それに対して、ふるさと納税により町民税の8倍の寄付額を得て、地域の子育て支援や少子化対策が充実した自治体があります。平成26年度には寄付額が全国3位になった人口およそ4,900名の町、北海道・十勝地方にある上士幌町(かみしほろちょう)です。

平成21年度には1件だった寄付件数が、6年後にはおよそ7万5千件になり、平成28年度の寄付額は、20億8千万円超になるといいます。

上士幌町役場企画財政課主査・梶さんは、寄付金の使い道についてこのように話します。

「寄付金の多くは町の『子育て支援』として活用しています。もともとほかの地域と同様に人口減少が止まらず、移住者を呼び込む狙いで子育て支援に力を入れました。

ふるさと納税を活用して『町ふるさと納税・子育て少子化対策夢基金』を創設し、認定こども園を10年間無料化することができました。現在は定員を超えて、140名に増えたので、増設・改築を検討しています。これにより移住者も増え、1年間で子育て世代を中心に30名ほどの流入がありました」

全国自治体の72%「返礼品に是正が必要」

共同通信の調査によると、「自治体同士の競走が激化した結果、返礼品代が寄付額の43%を占め、独自の政策に使えるお金はさほど増えない」という事実が判明。この状況に対し、全国の自治体の72%が「返礼品価格の上限設定など是正が必要」と考えていることが明らかになりました。

過熱する返礼品競争に、日本中が疲弊している様子がうかがえます。

被災地の復興支援など価値ある寄付もある一方で、流失した税金が新たな地域格差を生み出したり、居住する自治体のサービスに影響を及ぼしたり……その影響は多大。

ふるさと納税による控除が家計にお得な制度であることは間違いないですが、寄付する側としてもその寄付金がどのように使われているのか、一歩立ち止まって考えてみることも必要かもしれません。

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