はじめに

米国GMVは月間1億ドルに手応え?

実際、米国事業は経営陣を刷新して以降、コストの増加を抑制した中で流通高が伸びてきています。10~12月のGMVは8,700万ドルと、前年同期に比べて69.3%も増加。「クーポンがないと利用してくれない時期もありましたが、今はクーポンの発行を抑える形で運営できています」(小泉社長)。

利用者の利便性向上に向けた取り組みも加速させています。フェデックス、米国郵便公社に加えて、UPSとも梱包・配送代行サービスの連携を開始。利用者サポートでも、従業員1人当たりの処理効率が改善しており、人件費の増加を抑えた中で、顧客満足度の維持・向上が図れています。

こうした取り組みに手応えを感じているのか、小泉社長は「(現地の競合相手である)ポッシュマークはキャッチアップできる距離感になりました。月間GMV1億ドルに向けたステップをきちんと踏めば、(最大手の)イーベイに対抗できるポジションに行ける」と語ります。

イーベイは小規模事業者が販売するモノを個人が買うという側面が強いため、個人が売っているものを個人が買うスタイルのメルカリとは異なるというのが、小泉社長の分析。“売る”という切り口で事業を伸ばしていき、月間GMVが1億ドルに近づけば、黒字化も見えてくると、自信を示します。

開発中のメルペイも、競合他社との差別化によって、事業として確立していく方針です。他社の決済システムでは、銀行やクレジットカードからチャージして利用するのが基本。しかしメルペイでは、メルカリでの売上金を使って、買い物や各種サービスを利用することが可能になります。

「メルカリの売上金は銀行アカウントに引き出す人が多いのが現状ですが、これがメルペイ加盟店で使われることでモバイル決済が習慣化され、サービスとして成り立つと考えています」(同)

AIを使って国内事業の成長を加速

すでに順調に回り始めている国内事業も、さらなる成長を促します。これまでは20~30代の女性がユーザー層の中心でしたが、新たに30~40代の男性をターゲットに客層の拡大を進めています。

具体的には、オフラインでのチラシ配布によって顧客接点の拡充したほか、自動車好きが集まるSNS「カーチューン」を運営するマイケルを買収し、自動車部品の取り扱いを強化しています。

実際、10~12月期には、国内のGMVに占める「エンタメ・ホビー」の構成比が拡大。小泉社長も「ゴルフ用品やカメラなど、年齢が高い人が入ってくると単価も伸びるので、きちんと戦略を持って、単価の維持・向上を図りたい」としています。


2018年10~12月期のカテゴリー別GMV構成比

さらに今後は、AI(人工知能)を活用して、取引の簡略化も進める考えです。たとえば、出品したいモノのバーコードや表紙を撮影するだけでその商品の情報をアップロードできたり、撮影した画像から出品物の重さを推計したり、といった具合。最終的には、写真を撮るだけで出品が完了する形まで持っていきたいといいます。

人員増や季節性要因など不安要素も

とはいえ、こうしたAI開発の強化などには、相応の人材への投資が必要になります。メルカリのグループ全体の従業員数は2018年12月末で1,639人と、同年9月末に比べて280人以上も増加。今年6月まで従業員数は増え続けるトレンドだといいます。


メルカリの連結従業員数の推移

また、メルペイという決済事業に参入するには、ガバナンス強化のための人材も不可欠。「ネットサービスのようにバグがあれば修正するという対応では、金融サービス事業者としての責任を果たせない」(小泉社長)ためです。

2019年度下半期(1~6月期)を見通すうえでは、2018年10~12月期の特殊要因も見落とせません。この時期は毎年、高単価の冬物衣料の比率が高まるため、GMVが伸びやすい時期でもあります。ゴールデンウィークから夏場にかけて流通高は鈍化する傾向にあるため、期末にかけて収益が落ち込む懸念もあります。

また、今期から新たに導入した従業員向けのインセンティブ制度のコストが、下半期にずれ込んでしまったため、上半期の利益が本来よりも膨らんだという事情もあります。

黒字化に向けた戦略の方向性は定まっており、その手応えは日に日に増している印象が感じられた、今回の決算説明会。その一方で、実際に黒字化するには、まだしばらくの時間を要しそうであることも垣間見える内容でした。

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