はじめに
値下がりしにくい都心部は老後の住み替えにうってつけ
さらに沖さんが勧めるのは、都心部への転居。資産性の高いマンションには、「都心寄り」「駅から近い」など、いくつかの条件が当てはまることは連載の3回目でも触れました。
ただ、そうはいっても定期的な収入がある現役世代と違い、リタイア後でこれから年金生活に入るという夫婦が都心のマンションを購入するのは、価格的に迷ってしまうというのが正直なところ。
そこで確認したいのが、「マンションの中古騰落率」です。騰落率とはある一定期間の始めと終わりの価格の変化のこと。マンションでいえば、その物件が一定期間にどれだけ値下がりや値上がりしたかを示す数値です。騰落率が高いものほど値上がりしているといえます。
下の図は、スタイルアクトが独自に収集した23区内の中古マンションデータをサンプルに、新築時と中古売り出し価格を比較した中古騰落率の上位5区を表したもの。このデータをみれば、いつどのエリアで分譲されたマンションがどれだけ値上がりしたかが分かります。
2019年度 東京都 分譲年別&行政区別マンション中古騰落率
分譲年 | 千代田区 | 港区 | 中央区 | 渋谷区 | 台東区 |
---|---|---|---|---|---|
2002 | 43.5 | 29.0 | 31.3 | 14.6 | 24.5 |
2003 | 27.0 | 27.5 | 22.6 | 14.2 | 27.2 |
2004 | 10.6 | 26.1 | 33.1 | 13.2 | 25.2 |
2005 | 16.6 | 16.5 | 27.2 | 7.4 | 18.3 |
2006 | 13.9 | 9.1 | 6.6 | 14.0 | 3.1 |
2007 | 8.6 | 5.7 | 0.1 | -10.3 | -6.7 |
2008 | 25.6 | 13.5 | 2.6 | -11.2 | |
2009 | 0.7 | 16.9 | -9.9 | 3.6 | |
2010 | 26.6 | 34.0 | 12.7 | 15.2 | 7.1 |
2011 | 25.7 | 28.1 | 14.9 | 23.9 | 19.2 |
2012 | 27.3 | 26.3 | 16.5 | 35.1 | 22.8 |
2013 | 32.5 | 22.0 | 13.0 | 34.4 | 12.8 |
2014 | 13.9 | 15.7 | 9.5 | 12.0 | 8.7 |
2015 | 9.9 | 3.2 | 4.6 | 7.6 | -1.7 |
総計 | 22.3 | 22.2 | 18.7 | 17.4 | 16.2 |
※表中の単位は%
※本調査は「住まいサーフィン」が2017年7月から2018年6月に各不動産仲介会社を通じて売却された区分所有マンションの価格情報を独自に集計したものである。
スタイルアクトは分譲年ごとの調査も行っています。騰落率は新築の売り出し価格が安い時期ほど高くなるので、年度によってばらつきが出ているのはそのためです。
ここで注目したいのは一番下の総計です。1位から3位までは千代田区、港区、中央区と都心3区が独占しています。4位の渋谷区と5位の台東区は分譲年によって浮き沈みがありますが、平均してかなり値上がりしているといえます。
人生100年時代、リタイア後の生活といっても、この先ずっと夫婦2人で東京で暮らしていくとは限りません。結婚して家庭を持った子どもと同居することになったり、地方の親の家を引き継ぐという可能性もあります。都心部に資産性の高いマンションを買っておくことは、老後資金を目減りさせないためのテクニックの一つともいえるでしょう。
さらに注目したいのが、「再開発」というキーワード。
「千代田区は飯田橋駅周辺の再開発の影響で、2018年度版発表数値よりも中古騰落率が上昇しています」と沖さん。4位の渋谷区についても、渋谷駅周辺の大規模再開発によって同様の現象が起きています。
中央区に目を向けると、2022年に東京駅八重洲口の大規模再開発が完了。ホテルやオフィスなども入る複合商業施設が新たに開業します。また、港区でも2020年に開業を控える山手線の新駅「高輪ゲートウェイ」駅周辺で再開発が進んでいます。
数年先の開発計画も頭に入れながら、物件を探してみてもいいかもしれません。
夫婦2人ならリビングが広めの部屋を
エリアや面積以外にも老後のマンション選びのポイントはあるのでしょうか。
「高齢なので、足腰に負担がかかる坂の多いエリアは避けたほうが無難。小高い位置にある物件は住宅地として良い場所といわれていますが、老後に家を買うなら『丘の上よりタワーの上』です」(沖さん)
もう一つ、沖さんが指摘するのは「リビングの広さ」です。実は全国各地にあるマンションの約7割がファミリータイプの3LDK。同じ60平米でも部屋数が多ければリビングの面積は狭くなります。
勤めを辞めたあとは必然的に家にいる時間が長くなり、リビングで過ごすことも多くなります。個室よりもリビングの快適性を重視し、広さや日当たりなどをじっくり検討するといいでしょう。また、「夫婦それぞれが自由に生活するために、別々の部屋があったほうがいい」とも沖さんはアドバイスします。
2LDKのマンションで、昼は日当たりが良く広いリビングで夫婦2人でゆったり過ごす。夜はそれぞれが寝たいタイミングで自室に戻る。
老後にもう一度、そんなミニマムで自由な生活を手に入れてはいかがでしょうか。
老後にマンションを買うときのチェックポイントは?
(1)50〜60平米がベスト。掃除も楽になり、不用品を溜め込むことも少なくなる。
(2)値下がりしにくい都心部のマンションがおすすめ。人生100年時代、最後の住まいにならない可能性もあるので、売ることも念頭に置いて。
(3)足腰に負担がかかる坂の多いエリアは避ける。
(4)2LDKで快適なリビング、夫婦それぞれの個室を確保。
取材協力
沖有人
スタイルアクト株式会社代表取締役。不動産ビッグデータを駆使したビジネス展開を得意とする。分譲マンション情報サイト 「住まいサーフィン」 、独身者向けマンション購入情報サイト「家活」を運営。