はじめに

購買力平価から見た円の適正水準はどれくらい?

ところで、通貨の適正水準について色々な推計がなされますが、絶対的な物差しになるものがありません。そんな中、伝統的に用いられているのが「購買力平価」です。これは、各国通貨の購買力によって為替レートは決定されるという考え方です。

ただし、購買力平価は机上の空論であり、現実の世界から乖離していると言えなくもありません。つまり、関税などの貿易障壁が一切なく、完全な自由競争市場という架空の世界が購買力平価の成り立つ前提です。それ以外にも、使用する物価の種類や基準年をどこに置くかによって計算値がばらばらになってしまうという問題点があります。

ではここで、公益財団法人国際通貨研究所が公表しているドル円の購買力平価の推移を見てみましょう(下図)。

企業物価を使用した場合と消費者物価を使用した場合では、同じ購買力平価でも大きく数値が違います。例えば、企業物価ベースの購買力平価は直近の昨年12月時点で1ドル=96円28銭であり、一方、消費者物価ベースでは123円43銭です。

結局、現在の円の水準は購買力平価と比較して割安でもあり、割高でもあるという何だかよく分からないものになってしまいます。ちなみに国際通貨基金(IMF)が公表した昨年10月時点のドル円の購買力平価(2018年末)は1ドル=98円89銭となっています。為替市場の一部で聞かれる購買力平価に比べて現在の円の水準は割安という主張はIMFの数値が念頭にある模様です。

もっとも、前述のように購買力平価の水準自体を過度に信頼するのはリスクがあり、現実の為替レートが購買力平価に収斂されることもありません。結局、購買力平価はあくまで参考値という位置づけですが、企業物価ベースをドルの下限、消費者物価ベースをドルの上限とし、同レンジ内であれば、円は極端に割高でも割安でもないと考えるのがよいでしょう。

なお、重要なのは水準ではなく、傾きのほうです。日米を比較すると、これまでは米国の物価上昇率が相対的に高かったため、購買力平価は右肩下がり、つまりドル安基調となってきました。ところがここ数年、特に企業物価ベースの購買力平価は随分と横ばいに近い状況となっています。これが意味するところは、日本の物価上昇率が米国並みになっているということです。

物価上昇率が近いのであれば、金利が高い通貨が選好されやすいと見るのが自然でしょう。すなわち、円とドルではドルです。米国の利上げサイクルが終了すれば、確かにドルが一段高しにくいと考えられますが、絶対的な金利差が残る以上、円高余力は大きくないとみられます。

<文:投資情報部 シニア為替ストラテジスト 石月幸雄>

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