はじめに

東京地裁での司法通訳の現状は?

東京地裁広報によれば、「支給基準はなく、裁判官が言語の種類、事件の性質や内容が複雑かどうか、争っているかどうか、要する時間などを考慮して決める」のだそうです。このほかに、交通費や宿泊費は別途出るそうです。

天海氏が裁判所に問い合わせても答えなかったのは、こういった仕組みになっているからなのです。それでも、経験則でなんとなく肌感覚での時給が1万5,000円前後だそうなので、警察や法テラスの倍近い水準であることは間違いなさそうです。

登録名簿は、全国各地の裁判所単位で登録希望者の中から面接をして名簿搭載者を決め、その名簿は高裁、最高裁も含めて全国の裁判所で共有します。

ちなみに、東京地裁管轄で名簿に登載されている人数は、昨年12月27日時点で、中国語が241人、英語が64人、韓国・朝鮮語が60人、スペイン語が34人、ペルシャ語が18人のほか、43言語で150人、合計567人です。

“不透明な人選”への反論は聞けず

天海氏が指摘する「人選担当者と親しい特定の人への仕事の集中」について、警視庁は「選定は行ってもらう場所へのアクセスを考慮しつつ、通訳本人の都合を確認して要請している」とし、直接的な否定こそしていませんが、暗に否定する回答でした。

東京地裁は「広報として回答する立場にない」という回答でした。人選は個々の裁判官の判断だから、ということのようです。天海氏が指摘している「能力不足」の問題については、「研修を実施して能力向上を図っている」というのが地裁の回答です。

結局のところ、天海氏が呈した疑問に対する真正面からの反論は聞けませんでした。司法通訳の報酬は税金で賄われていますが、検察からの回答は一切ありませんでした。

裁判所内で法廷通訳の人選をしているのが、名実ともに裁判官なのか、あるいは事務官が裁判官から丸投げされて業務をやっているのかは、裁判所内のことだけにわかりません。しかし確かなのは、研修で必要十分な能力が備わるのであれば、能力不足の批判が弁護士から出るわけがない、ということです。

特に法廷通訳に関しては、報酬体系についての目安になるものすらなく、裁判官の判断に一任されているというのは驚きです。しかも、警察や法テラスの倍近い報酬が、よくわからない人選の基準で特定の人に支払われているとなれば、優秀な人材が司法通訳を避け、結果的にその地位も上がらないのは当然といえそうです。

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