はじめに
夫婦のかけあいでわかりやすく初歩的な経済の知識を知ることができる、累計7万部(紙&電子)の大ヒット経済エッセイマンガ『キミのお金はどこに消えるのか』。
著者・井上純一さんに、経済とマンガ表現の相性の良さや、本書の次に読むのにおすすめのブックリストを紹介していただきました。経済のことは苦手、挫折した……といった人でももう一度学び直せるヒントになりますよ。
永遠に解決しない経済はエッセイマンガにしやすい
――マンガだと、経済学が苦手でも、何度も読み返しやすいですね。
井上:じつは経済はコミックエッセイにしやすいんです。経済は起承転結がない。良い時と悪い時の振れ幅が大きく、ひとつの物語として見るにはとても複雑。
さらに、努力した人間が必ず救われるとは限らないし、必ず毎回逆転するような漫画にもできない。答えがでないので、ストーリー漫画にはしにくいんです。
監修の飯田泰之先生も「経済学の研究は究極の真理を探究するというよりも,現状を少しでも良くするツールを提供するべきだ」と仰っていました。著名な経済学者のケインズも「経済学者は腕の良い歯医者であれ」(つまりは状況をちょっとずつ改善していくべき)と言っているそうです。
僕の印象としては、経済には枝葉末節しかない。経済では巨大な結論は出ず、マメ知識の塊みたいなところがある。だからこそ、ストーリーではなく枝葉を描くコミックエッセイにしやすいんです。
なので、僕以外の人間にも経済のコミックエッセイを書いてほしい。もちろん、僕と反対の意見でも構いません。とくに、儲けた・損したといったテーマではなく、お金の理論の話を描いてほしいですね。
――別のインタビューでマンガを読んだ人に「ぼんやりしたイメージ」をもってほしい、とおっしゃっていたのが印象的でした。なぜ「ハッキリ」ではなく、「ぼんやり」なんですか?
マンガが得意なのは、ぼんやりした情報を伝えることだからです。臨場感やその場の空気を伝えるのに、マンガほど素晴らしいメディアはない。
たとえば、「戦争はよくない」ということを理論的に伝えることは難しいけれども、『はだしのゲン』を読めば全員が「戦争はよくない!!」という気持ちになる。
『キミカネ』の1巻では、なるべく頑張って、高校で学ぶ政経レベルの範囲の知識をまとめてあります。だから、中学生以上であれば、頑張れば『キミカネ』の内容を理解できる。マンガで誰でも知っていておかしくないはずの知識を手に入れられるものにするというのも、ひとつの目標でした。
このマンガを読んでも、経済について理解できない部分はたくさんあると思う。でも、何回か読むうちに「お金というのは借金で増えるんだね」というぼんやりしたイメージが頭の中に形作られる。そうすれば、変な理論を聞いた時に「それは変だろ」とまずは気持ちで思えるようになります。
そうやって「今、消費税率を引き上げるのはやばいぞ」と思ってくれて、引き上げがとまれば、結果的にみんなのお金が変わるわけです。
そこが経済の面白さ。
みんなでお金儲けをしようと思うと、初めて自分が儲かるんです。自分だけが儲けようと思うと全体が下がる。優しさにも似ていますね。自分だけに優しさを費やすと、周りと一緒に自分まで不幸になるけれども、その優しさを周りに向けると社会全体が幸福になる。そして、相手の価値観を認めることで、そこにまた新しい価値がどんどん生まれていく。
――現在は2巻の製作に取り組んでいると聞きましたが。
2巻は2019年中には出ると思います。1巻と比べて、「バーゲンとはなにか」や「不動産投資するといいことがあるのか」などより身近な話題も取り上げるように。中国出身の妻、月(ゆえ)さんの反応も、1巻よりもずっといいです。
中編で触れた「地位財」のように、幸福とお金がどうつながるかが大きなテーマ。マンガ家としては、お金や経済は、とてもいい題材。次々と問題が起こるので終わらない。無限に続けられます。