はじめに

埼玉の3駅が躍進した理由

こうした傾向は、2017年の54位から2018年・2019年は38位に上がった川越(東武東上線)にもみられます。東上線のほかにもJR埼京線、JR川越線が乗り入れており、東京都心には30分程度でアクセス可能。加えて、商業施設も充実しているほか、「小江戸」としてのブランド化が進み、休日の楽しみにも事欠きません。

今回のランキングでの躍進が伝えられている埼玉の2大都市も、個性化の成功例といえそうです。大宮は駅の東口と西口の両方で再開発が進行。その一方で、吉本興業の劇場が開業したり、氷川神社がたびたびテレビ番組で取り上げられるなど、メディアへの露出が増え、街の魅力が広く伝えられました。

大宮氷川神社
文化的な側面もクローズアップされるようになった大宮の氷川神社

また、浦和も商業施設が頻繁にリニューアルされているほか、分譲マンションの供給が増加。県立浦和高校など、元から地元の公立高校のレベルが高かったことも相まって、「お受験都市」としてのブランディングが確立された格好です。

これらの街は、従来からの街のポテンシャルが再開発によって顕在化し、30~40代のコスパ意識の高い、新たな住宅需要層を引きつける結果となっています。逆に、駅周辺での投資が一段落した二子玉川や、駅前の開発余地が限られる自由が丘はランクダウンすることになりました。

「バブル世代は“形として残るもの”にしかお金を投じませんが、今の住宅需要層は“コト消費”にお金を使います。都心にマンションを持ちたがるのは、所有意識の強い世代。これからはそういう人たちが減って、これまでの都心重視の流れが変わっていくかもしれません」(東京カンテイの井出さん)

通勤重視が変容する第一歩

三鷹のほかに井出さんが注目した街が鎌倉です。2017年・2018年の14位から今年は10位と、ついにトップ10入り。同じく湘南の街として、30位の藤沢(2018年は35位)、65位の江の島(同100位圏外)にも要注目だといいます。

鎌倉大仏
2拠点生活者からのニーズが高まっている鎌倉

これらの街に共通するのは、2拠点生活に適した街だという点。周辺に観光資源が多く、セカンドハウスを借りたり、購入する人が増えているエリアです。中には、生活基盤をこうした街に移し、平日は東京都心に通勤し、週末は地元での活動を楽しむ人も出てきています。

大手デベロッパーの中には、こうした2拠点生活者への対応を強化しているところもあります。大和ハウス工業は、東海道新幹線が停車する小田原駅の駅前に14階建てのマンションを開発中。地元のマンション需要がそれほど旺盛なエリアではないため、2拠点生活者をターゲットに据えていることは明らかです。

こうした動きの背景にあるのが、働き方改革やオフィス形態の多様化、週休3日制の導入といった流れ。すでに鉄道会社の中には、自社沿線の中核駅にセカンドオフィスを開発する企業も出てきており、わざわざ東京都心まで出ていかずとも、自宅に近い場所で仕事ができる環境が整えられてきています。

これまでは、仕事のために“通勤には便利だけれど家賃も高い街”に住まざるを得なかった層も、リモートワークである程度の仕事ができるようになったわけです。「街に求められる要素が、通勤重視型から変容しつつある第一歩かもしれません」と、井出さんは分析します。

タワマンエリアが苦戦するワケ

一方で、苦戦傾向がみられ始めたのが、これまで人気だった川崎市や東京湾岸のタワーマンションエリア。川崎では、武蔵小杉(東急東横線)が2018年の6位から今年は9位にダウン、川崎(JR京浜東北線)が20位から26位に後退しています。東京湾岸でも、豊洲が46位から58位に低下しました。

川崎市については、同じ神奈川県内の横浜市よりも住宅価格が高くなっているのに、街としての成熟度は横浜ほどではありません。また、東京湾岸については、住友商事が本社を勝どきから大手町に移転したことに象徴されるように、街の発展に対して交通インフラの拡充が追い付いていないことがネックとなっているようです。

「分譲価格や家賃が街としてのパフォーマンスとバランスしていない街は敬遠される流れになっています。名より実を取る傾向が強まっているのかもしれません」と井出さん。そのうえで、最近では世田谷区や目黒区といった従来の人気住宅エリアよりも、千住や赤羽といったエリアのニーズが高まっていると指摘します。

こうしたエリアで家を探す層は「長く住もうというより、ライフスタイルが変われば良い値段で売れそうなので買っておこうという感覚」(同)なのだといいます。最新の住みたい街ランキングからは、フリーマーケットアプリ「メルカリ」に代表されるシェアリングエコノミーの流れが住宅業界にも押し寄せている現状が垣間見えます。

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