はじめに

特定多数のファッション好きを狙い撃ち

しかし、光明も見えています。ファッション好き顧客の自己実現ニーズが拡大しているのです。

たとえば、ハイブランドの期間限定プロモーションは売り上げが2013年の2倍に拡大。ラグジュアリーブランドの売り上げも同じ比較で9割も伸長しています。また、メンズ館で年間30万円以上購入する客層の売り上げは年々増加。オーダー関連の売り上げも着実に増えています。

 今回のリモデルを決定づけた定量データ
今回のリモデルを決定づけた定量データ

現在、メンズ館の顧客としてとらえている265万人の平均年齢は49.5歳。オープン時に30代だった顧客がそのまま年齢を重ねながら購買し続けている半面、20代の取り込みは30~50代ほど進んでいません。

 三越伊勢丹が想定している対象顧客像
三越伊勢丹が想定している対象顧客像

売上高の回復には、こうしたミレニアル世代の開拓に加えて、インバウンド客や富裕層の深掘りも欠かせません。今回のリモデルは、これらの層を狙い撃ちしたものです。「不特定多数でなく、特定多数のファッション好き顧客が自分らしさを表現できる百貨店を目指します」(三越伊勢丹の片桐朗・紳士・スポーツ・特選MD統括部長)。

これらの施策によって、三越伊勢丹ではメンズ館の年商を2020年までに500億円を目指すとしています。「われわれが背負っている取り組み先(アパレルメーカー)に対する責任として、大きなオーダーを狙います」(同)。

かつての愛用者をどう取り込む?

こうした会社側の説明には一定の納得感があり、実際に内覧会で店内を見て回っても、伊勢丹らしいラグジュアリー感とこだわりは細部でも感じられました。しかし一方で、本当にこれが多くのメンズ館愛用者が求めていることなのか、という疑問も抱きました。

取材者としての立場を離れると、筆者も開業以来、メンズ館を愛用し続けてきた1人。学生時代には就職活動用のスーツを購入したほか、社会人になって数年はシーズンごとにビジネスウェアを新調していました。

しかし、ここ数年は家族の買い物のついでに、靴やメガネのメンテナンスに訪れる程度。メンズ館の主要商品である衣料品を購入する機会は、めっきり減りました。ビジネスウェアであれば割安で購入できるオーダーショップが増えましたし、ファストファッションのラインナップも広がり、普段着であればこれらのショップで十分になったのが一因です。

今回のリモデルにあたって、片桐部長は「データは細かに分析していますが、それに頼ることなく、目の前のお客様が何を望んでいるかに集中しました」と説明します。しかし、これだと百貨店の枠内だけで考えた印象が否めず、百貨店を離れていったかつての愛用者たちの意見は反映されていない懸念があります。

つまり、ファッションにそこまで関心のないアッパーミドル層が切り捨てられたような感想を持ってしまうのが、今回のリモデルなのです。実際、こうした層が求めるであろうオーセンティックゾーンは、ラグジュアリーブランドやコミュニケーションスペースに面積を割いた結果、7階に押し込められ、売り場は雑然とした印象がありました。

目先の利益ではなく、中長期でのメンズ館の成長を考えるのであれば、メンズ館から足が遠のいてしまったかつての愛用者たちの“声なき声”にも、耳を傾ける必要があるのではないでしょうか。

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