はじめに

「中国景気の減速」という言葉は、最近、枕詞のように使われています。「中国景気の減速で」日本の輸出が落ち込んだ、「中国景気の減速で」上場企業の業績が大幅減益となった、等々です。どんな悪いことも、とりあえず「中国景気の減速で」と言っておけば説明がつけられそうな風潮です。

たしかに、中国の景気は芳しくありません。2018年の実質国内総生産(GDP)成長率は6.6%と28年ぶりの低水準でした。2月の輸出は前年比で2割も減少、1~2月の工業生産の伸びもリーマン・ショック直後以来、10年ぶりの低水準でした。


中国景気は“子供”から“大人”へ

今月の上旬に開かれた全人代で、李克強首相は政府活動報告を行い、今年の成長率目標を6~6.5%に設定し、前年の6.5%前後から引き下げました。中国の成長率はどんどん下がってきています。

ただ、それは人間の成長と同じことです。子供の頃は背が1年で何センチメートルも伸び、毎年のように服や靴などを買い換えなくてはなりません。でも、やがて身体の成長は止まります。では、そこから何も成長しないのでしょうか。そんなことはもちろんありません。人間としての内面の成長はずっと続きます。少年から青年へ、若者から大人へ、大人になってからも成熟は年々続きます。経済も同じです。高成長から中成長へ、そして成熟した経済へと変化していきます。

中国の1人あたりGDPはほぼ1万ドルに達しており、もう大人の仲間入りです。経済成長率は鈍化していくでしょう。でもそれは当たり前のことで、いつまでも高い経済成長率が続くほうが不自然です。GDPの伸びは鈍化しますが、それは成長しないということではなく、人間と同じように内面の成長が主になっていくということです。

すなわちハードからソフトへ、重工業などモノづくり主体の経済から、サービス業を主体とする経済のソフト化が推進されるでしょう。ですから、単に統計の数値が「何年ぶり低水準」といっても、あまり意味を持ちません。

ジャブジャブ供給で融資額は過去最高規模

ここで重要なことは、中長期の経済成長と短期の景気循環を混同した議論をしないことです。上述した中国のGDP成長率が緩やかに下がってくるというのは、経済成長の話で、輸出や工業生産が落ち込んだ、というのは景気循環の話です。

景気というのは英語でBusiness Cycleというように、循環(Cycle)するものです。景気は良くなれば、次は悪くなり、悪くなれば、次は回復するものです。景気自体の自然な循環に、政府の政策がその動きを加速させます。景気が悪くなれば当然、政府は景気刺激策を打ちます。

まさに、中国は全人代で2兆元の景気刺激策を打ちだしました。これがダメ押しになると思います。というのは、全人代で景気刺激策を決定するよりだいぶ前から政策出動がなされていたからです。

その最たるものは引き締め政策の転換です。中国は国有企業や地方政府の負債膨張を抑制するため「ディレバレッジ政策」をとってきました。ところが引き締め過ぎたせいでお金が中小企業にも回らない信用収縮のような状態を招き、これが中国景気を減速させた一番の理由でした。

中国政府はその景気悪化の元凶であった引き締めを止め、180度政策を転換させて、今度はお金をジャブジャブに流し始めたのです。それを如実に示すのが、企業や個人が銀行や市場を通じて資金調達した総額を示す社会融資規模です。

社会融資規模の残高は1月末で205兆元と前年同月比10.4%増えました。1月の調達額は4兆6,400億元と前年同月よりなんと5割も増えています(2月はその反動と春節の影響で大きく減少しましたが)。銀行融資に限っても1月は3兆2,300億元と過去最高を記録しました。

これだけの規模のお金がファイナンス(調達)されたということは、次はこれだけの規模のお金が何かしらに使われる番です。お金を借りて貯蓄することはあり得ません。投資されるか消費されるかのいずれかでしょう。すなわち投資か消費にお金がまわり、活気づくということです。

堅調な株価が示す展開に備えよ

中国景気は減速してきました。しかし、景気悪化のサイクルももう8合目あたりにきていると思われます。3,000ポイントの大台を突破している上海総合指数は、もちろん米中貿易協議の進展期待の追い風に乗っての上昇ですが、株価堅調の背景のひとつに中国景気の底入れ~反転期待もあると思われます。

上海総合指数の推移(日足)

日本株投資においても、中国景気の底入れ~反転に備えたシナリオを用意しておくべきだと考えます。

<文:チーフ・ストラテジスト 広木隆 写真:代表撮影/ロイター/アフロ>

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