はじめに

ライセンサーに振り回される日本企業

長年海外の企業からライセンスを供与されて、その製品を普及させた日本企業が、あっさり切られた代表的な事例に、クラッカーの「リッツ」があります。

ライセンシーの山崎製パンは、ライセンサーであるモンデリーズから「下請けならやらせてやってもいい」と言われたそうですが、これを拒絶。1年間は類似製品を製造できない契約になっていたので、契約終了から1年後、独自製品「ルヴァン」で巻き返しを図り、見事にモンデリーズ製の本家に勝利しました。

しかし、三陽商会は大打撃を受けたままです。売上高は直近の半分、ピークの4割に下がり、本業の儲けを示す営業損益は、ライセンス終了以来3期赤字が続いています。2度にわたって希望退職を実施して人件費は大幅に減っているのですが、減収の影響が大きく、コスト削減が追いつかないのです。

それでも三陽商会は安定配当方針なので、赤字でも配当を続けています。実は、そんな三陽商会に対し、シンガポールのファンドが増配を求める株主提案を出したのです。求めた配当額は1株当たり80円。会社側が提案している配当の倍です。

ファンドが増配を求めた背景

実はこれ、やってできなくはありませんでした。というのも、三陽商会は配当原資となる利益剰余金が連結で160億円、単体で158億円ありました(2018年12月末時点)。

利益剰余金

業績は連結で見ますが、配当をするのは単体のほうなので、単体に配当余力がなければ、いくら連結で余力があっても配当はできません。しかし、三陽商会の場合、連単格差はごくわずかです。

3期赤字が続いているので、ライセンス契約終了直前期の2014年12月期末時点のほぼ半分に減ってはいるのですが、それでも158億円あります。会社提案の1株当たり40円だと配当総額は5億円なので、倍の80円でも総額は10億円。提案株主の要望はとんでもない金額というわけではなく、払う余力は“あるといえばある”のです。

これに反対したのが、約5%を保有する「RMBキャピタル」という米国籍のエンゲージメントファンドでした。

増配よりも再建投資を支持

三陽商会は、2018年12月にバーバリーのライセンス終了後2度目となる希望退職を実施しています。1回目は2016年12月で、この時に249人が退職しているのですが、今回も同規模の247人が退職しました。

今回の退職者数は連結従業員の約4分の1にあたります。長年会社を支えてきたこれだけの数の従業員を対象とする希望退職を実施したのに、株主だけを優遇するのはおかしいというのが、その理由です。

株主も再建の痛みを共有するべきだとして、今は増配ではなく、ブランドポートフォリオの再構築やeコマースの強化など、長期的な企業価値向上に有効な投資にお金を回すべきだ、というわけです。

最終的に、総会ではシンガポールのファンドが提出した株主提案に9割近い株主が反対しました。三陽商会は外国人株主比率が24.5%ですので、RMBキャピタル以外にも、増配に反対した外国人株主がいたことになります。

いまだに外国人投資家だというだけで、逃げ回って対話を拒絶する経営者が少なからずいるようです。しかし、三陽商会のケースから、正論で向き合えば味方もしてくれるということが理解されれば、対応は変わってくるのかもしれません。

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