はじめに
PERと割安投資の正しい考え方
それでは、株式の事例で具体的に検討しましょう。
翌年にA社の市場シェアが90%失われてしまう状況を考えてみます (なお、今回は市場シェアと1株当たりの利益が連動するものと仮定します) 。現在、A社の株価は1万円、PERが10倍であるとしたら、確かに割安に見えるかもしれません。しかし、市場シェアが来年に10分の1になれば、会社の事業規模のほとんどが失われてしまいます。
そうであるにもかかわらず、A社が翌年まで株価を維持すると、PERは大きく上がって100倍程度になるかもしれません。翌年に市場シェアのほとんどが失われる銘柄を保有することは不合理です。そのため、実際は株価が下がることで低いPERを維持する動きになる傾向があります。
逆に、1年後にA社の市場シェアが10倍になると予想されているにもかかわらず、PERが10倍であれば、割安ということになります。株価が同じ場合、今年のPERが10倍でも、翌年のPERは1倍になるからです。
このように、PERは他社と比較するものではなく、同じ会社の事業の先行きやこれまでの経緯から将来の状況を予想して、高いのか、低いのかということを判断するために用いるべきであるといえるでしょう。
Amazonは投資回収期間を217年以上も縮めた
PERが83倍のAmazon.comを割安投資であるとバフェット氏が考えた理由は、将来のAmazon.comの事業規模を予想した時に、成長性が過小評価されていると判断したからであると考えられます。かつて、Amazon.comのPERは300倍を超える時期もありました。しかし、株価は上昇を続けつつ、足元のPERは83倍程度と低下傾向にあります。
これまで投資金額の回収に300年かかるといわれた企業が、その価値を損なうことなく83年で投資金額を回収できるようになったということは、市場の期待に応えながら着実に成長していることになります。そのような状況も、バフェット氏の投資判断に影響を与えた一因ではないかと推測されます。
ただし、高いPERであれば必ず儲かるというわけでもありません。マネーゲームのような要因で相場が過熱し、PERが高くなっているような銘柄は、そもそもPERを判断の指標に用いるべきではありません。
<文:Finatextグループ 1級ファイナンシャル・プランニング技能士 古田拓也 写真:ロイター/アフロ>