はじめに
写真共有アプリ・インスタグラムは、創業からわずか5年ほどで、億単位のユーザーが参加するグローバルな現象となりました。現在では、マーケティング・ツールとして巨大ビジネスからも注目を集めています。自撮り、著名人崇拝、バズ現象、そして「いいね」による共感などに特徴づけられたインスタグラムは、現代人の精神の一端を映し出しているのではないでしょうか。
私は大学において「宗教社会学」のゼミで教えていますが、宗教における人とのつながりや、何らかの「崇拝」現象についてのディスカッションになると、決まって「自分の日常の中でいうとインスタの事を思い起こす」といった意見が出ます。今の大学生たちにとって、インスタグラムなどのSNSは、それだけ身近で、自分たちの生活を彩るものなのかもしれません。
現状のインスタグラムの存在は
インスタグラムは、いうまでもなく、日常に浸透したスマートフォン・アプリでありソーシャルメディア(社交するためのメディア)のひとつです。
2010年にケビン・シストロムとマイク・クリーガーによって開発され、スマホで撮った写真を真四角に切り取って、フィルター機能によって見映えを加工し、インターネット上に共有する、というものでした。
スタート当初は、ポラロイドカメラのイメージでインスタグラムのアイコンも作られていました。また、初期の頃はiPhoneのカメラの解像度が今ほどは高くなかったため、フィルターで加工する意味も大きかったといわれています。
気に入ったユーザーを自分のアカウントに登録しタイムラインに表示させることはフォローと呼ばれています(フォローする人はフォロワー)。それはどこか「信奉者」のような言葉の響きでもあります。
#マークをつけた言葉を投稿に添えると、その言葉を付けられた他の写真をインスタグラム全体から検索したりすることもできます(ハッシュタグ機能)。
手軽におしゃれな写真や自撮りを共有するこのアプリは、急成長を遂げ、次第にグローバルな現象となってゆきます。2012年には、facebookに10億ドルで買収され、facebookとの連携機能も強化されます。
また、必ずしもインスタグラムに限った用語ではありませんが、2013年には、オックスフォード辞典が選ぶ「今年の英単語」に「セルフィー」(Selfie:自撮り)が選ばれ話題となりました。日本でも、2017年にユーキャンの新語・流行語大賞に「インスタ映え」が選ばれ、一気に他のマスメディアで言及されることも増えました。英語ではインスタ映えするということを"Instagrammable"とも表現するようです。
Twitter、facebookといった他のソーシャルメディアと比べて、インスタグラムにはいくつかの特色があります。*1他のSNSよりも、インスタグラムは相対的に若い女性のユーザーが多いといわれています。また、投稿に対して「いいね」を押したりコメントしたりする率(エンゲージメント)が高くなっています。
時に激論になりやすくネガティブなコメントも多いTwitterと比べると、インスタグラムはポジティブなコミュニケーションをやりとりしやすい場であるといえます。またそれゆえ、企業がマーケティングに活用したいと関心が一番高いSNSだとの見方もあります。
世界ではインスタグラムの月間アクティブ・ユーザー数は2018年に10億人を越え、Twitterよりも人気があるとされています。モノ消費--物品を購入する消費--の時代から、とコト消費--体験・経験することに価値を置く消費--の時代へ、といった言い方もだいぶ一般的になってきましたが、インスタグラムの人気もまた、コト消費の拡大と呼応していることは明らかでしょう。
*1 坂田利康 2016「インスタグラム・マーケティング戦略」『高千穂論叢』51(2), 1-33.