はじめに

情報過多社会の明と暗

こうした傾向が出ている背景には、どのような事情があるのでしょうか。RMSの分析は、次のようなものです。

近年の新入社員は、インターネットなどで欲しい情報をすぐに入手できる環境で育ち、就職活動においてもOB訪問、インターン、ネット掲示板などから多くの情報を入手してきたため、いかに最短距離でゴールに到達できるかを考えて行動するのに長けているといいます。

その一方で、情報過多の時代に就活をしてきたため、自分の中で就職後のイメージを膨らませており、入社後の現実と乖離が起きやすい状況にもあります。「売り手市場」の中で“選ぶ立場”で就活をしてきたことも、希望の仕事ができない職場で時間を無駄にするよりも、自分の希望がかなう職場に移ったほうが良いと考えがちだともいいます。

また、ビジネス環境が多様化・複雑化し、以前のように正解や決まりきった方法のない仕事も増えています。

数年前までであれば、理不尽さや試行錯誤など、学生時代に経験したことが社会でも活用できる環境がありました。しかし近年の教育現場では、対話重視の環境や生徒が先生を評価する「逆評価」が広がり、学生時代に蓄えた経験値が社会に出てから生かせない状況になっているようです。

学生時代までの経験
育成担当者と新人・若手の学生時代までの経験の違い

「教育現場では『自分らしさが大事』と言われてきたのに、社会人になると『相手基準が大事』と言われる。経験値がないので、仮に失敗しても、そこからリカバーすればよいとは考えられない」(桑原正義・主任研究員)

現場は19新卒にどう接すべき?

では、こうした状況を踏まえて、受け入れる側の上司や先輩社員はどのように新入社員に接するべきなのでしょうか。

RMSが2018年9月に入社3年目以内の新人・若手社員424人を対象に実施した意識調査では、「入社後1年目での悩みや壁」として「想定以上にできない自分に自信を喪失した」「周りにどう思われているか不安」「与えられた仕事の意味ややりがいが感じられない」という回答が上位3項目となりました。

また、「悩みを乗り越えることができた要因」としては、「同じ職場の先輩や上司からの働きかけやサポート」という回答が16.3%でトップ。他方、「仕事の不安や悩み事を気軽に相談できる人がいる」と答えたのは67.9%で、そのうち「主な相手が社内にいる」としたのは52.4%。つまり、社内に相談相手がいるのは全体の35.6%にとどまりました。

桑原主任研究員は「こうした人をいかに増やしていけるかが、組織としての課題」としたうえで、「どんなことがあっても受け止めてあげる安心感、心理的安全性がチームパフォーマンスにとって重要」と説きます。

上司や先輩社員にとっても先行きの不確実性が増している、現在のビジネス環境。ましてや、従来よりも経験値が不足した状態でその中に飛び込んでくる新入社員にとっては、不安なことだらけであることが容易に想像されます。

忙しいから構ってあげられない、ではなく、忙しいからこそ新人の多様性を認め、共に現場力を引き上げていく――。そんな度量の大きさが試されている局面なのかもしれません。

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