はじめに
フランス政府が日産に気配りする理由
日産への配慮の背景には、同国政府に吹きつける強い逆風があります。
昨年11月に始まった「ジレ・ジョーヌ」と呼ばれる黄色いベストを着用した参加者の反政府の抗議デモは、8日にも行われました。同日のデモはフランス語で「アクト30」。つまり、週末土曜日「恒例」のデモは、これで30週連続です。
昨年11月から続くフランスの反政府デモ「ジレ・ジョーヌ」(写真:ロイター/アフロ)
同国内務省によれば、8日のデモの参加者は1万0,300人にとどまり、規模は当初からかなり縮小しています。それでも、同日にはフランス南部の都市、モンペリエでデモ隊と治安部隊の衝突が起きるなど、緊張が続いています。
長期化するデモでは、「格差拡大」への不満を口にする参加者も少なくありません。
フランス国内で働くルノーの従業員は、グループで4万8,000人。日産・ルノー連合の屋台骨を支える日産との間の溝がさらに深まるようだと、雇用確保への不安が高まって政府への逆風も一段と強まる可能性があります。このため、日産に頼らざるをえないのが政府の立場です。
ルノーと日産の関係はどうなる?
突如として浮上したFCAとルノーの統合話は、日産からすれば「寝耳に水」だった感がありそうです。それだけに、日産側がルノーやフランス政府に対する不信感を強めるのは避けられそうにありません。
FCAとの交渉の過程では、ルノーが政府の「操り人形」であることも浮き彫りになりました。日産はルノー側が持ち掛けている統合をかたくなに拒絶しており、今後さらに態度を硬化させることも考えられます。
株式市場でもルノーの先行きへの不安が台頭。同社の株価は6日のパリ市場で統合撤回を嫌気し一時、51.71ユーロと前日終値から約8%下落しました。
「ルノーは危機が長引くリスクに直面している」などと、フランスのメディアは一斉に報道しています。「雇用を守ろう」といった信念に基づくフランス政府の行動が、かえってルノーに危機をもたらしているのは、なんとも皮肉です。