はじめに

非正規雇用女性の生涯所得と課題

なお、非正規雇用者では出産などで休まずに働き続けた場合でも、生涯所得は1億円程度にとどまります。正規雇用者と比べてと賃金水準が低いため、出産して復職したケースとも大きな違いはありません。非正規雇用者では、福利厚生制度の整っている正規雇用者と比べて出産後の就業継続率が低いことが課題となっています。背景には非正規雇用者の育休取得要件が厳しいことがあります。

そこで、2017年「改正育児・介護休業法」では非正規雇用者の育児休業の取得要件が緩和されました。これまでは、「同一の事業主に引き続き1年以上雇用されていること」や「子の1歳の誕生日以降も引き続き雇用されることが見込まれること」といった条件を満たす必要がありましたが、2つめが「子が1歳6か月に達する日までに、労働契約の期間が満了することが明らかでないこと」へと改正されました。なお、そもそも契約社員などの非正規雇用者でも育児休業を利用できることが、あまり認知されていないことも課題でしょう。

女性の生涯所得差はパートナーにも企業にも大きな課題

日本では、M字カーブがまだ残っていますが、就業希望を持つ女性を足し合わせると、実はM字カーブは、おおむね解消されるのです。

図3 女性の労働力率と就業希望

しかし、なぜ働いていないのかというと、その主な理由は「出産・育児のため」や「適当な仕事がありそうにない」ということです。平成で進んだ「女性の活躍推進」は、引き続き令和でも進めていく必要があります。

もちろん「専業主婦として家庭を守りたい」、あるいは、「子どもが小さいうちは家庭を優先したい」という考え方は尊重されるべきで、全ての女性が働く必要はありません。また、仕事を辞める決断をする時に、これから得られなくなる収入について考えない方はいないでしょう。

一方で、改めて、この生涯所得の差を見ることで衝撃を受けた方も少なくないのではないでしょうか。この金額の差は、女性自身にとってはもちろんのこと、パートナーにとって、家庭全体にとっても大きな差です。経済合理性を追求することが、必ずしも幸せにつながるわけではありませんが、家計の余裕は子どもの教育の充実や家族旅行などの楽しみにもつながります。

また、女性の離職は企業側にとっても大きな損失と言えるでしょう。仕事と家庭の両立環境の整備状況が不十分であることなどを理由に離職され、労働力不足の中で新たな採用コストや育成コストが発生してしまうのです。また、この推計では出産・育児による離職しか想定していませんが、来たる超高齢社会においては介護離職も大きな課題となります。仕事と家庭の両立環境の整備を進めることは、企業におけるリスク管理としても取り組むべきでしょう。

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