はじめに
コンビニのアイスケースの中で寝そべるアルバイト店員の写真、銀行員の親から聞いた著名人の来店情報……。このような情報を軽はずみな気持ちでツイッターなどのSNSに投稿、見る見るうちに拡散し、大騒動を巻き起こす“ネット炎上”。
投稿者の雇用主である企業はその責任を問われ、売上の大幅減や店舗閉鎖、信頼を大きく失うなど経営の根幹を揺るがすような窮地に立たされることも少なくありません。
SNSの普及によって、ネット炎上が企業に及ぼす影響はますます拡大し、企業側の意識だけでコントロールできる問題ではなくなってきています。
そんなリスクに晒されている企業を支援したいという思いから、新しい保険が誕生しました。
国内初「ネット炎上」保険
SNSの普及に伴い、増えているネット炎上件数。その増加とともに与える影響も強まり、企業の業績や株価にまで多大なインパクトを及ぼすことも少なくありません。
そんな時代背景を受けて登場したのが、損保ジャパン日本興亜の「ネット炎上対応費用保険」です。SNS等のインターネット上で、企業に関するネガティブな情報が拡散、または拡散するおそれが発生した場合に、企業が支出する炎上の拡散防止費用やメディア対応費用を補償してくれる、という国内初の炎上対策保険です。
増加する炎上件数
この画期的なネット炎上保険は、どのような経緯で導入が決まったのでしょうか。また、補償の対象は? 気になるアレコレを、損保ジャパン日本興亜株式会社の広報担当者の方にうかがいました。
――今回の「ネット炎上対応費用保険」導入の経緯について教えてください。
「インターネットやスマートフォンの普及によってネット炎上は、年々増加傾向にあります。2010年は102件でしたが、5年でおよそ10倍の1,002件まで急増しています。企業の方々からご要望をいただいたというわけではございませんが、このような状況を受けて、ネット炎上によってさまざまな被害を被った企業を支援したいという思いで今回の導入を決めました」
――例えば、話題づくりのために、わざと炎上させる“炎上マーケティング”といったものもあります。保険の対象となる炎上かどうかの判断はどのようにされるのでしょうか?
「保険の対象となるのは、会社の内部から発生する『不適切行為』や『情報漏えい』、会社外部から発生する『商品の不具合・不衛生』『従業員の対応』『広告における問題』などです。
ただ、炎上の定義は一概に決められるものではございませんので、企業に第三者の調査機関を入れて、モニタリングを行った上で判断を行います」
――以前、コンビニのアルバイト店員がアイスケースに入った画像をSNSに上げて大騒動になりましたが……このような場合も補償対象になりますか?
「この場合は、従業員の不適切行為に当てはまると思いますが、こちらもモニタリング調査を行った上で、炎上と認められれば対象になります。
炎上と認定されれば、アルバイト・派遣社員など雇用形態にかかわらず、従業員の行為による炎上はすべて対象になります。また、食品の異物混入が発見されてネットで広まった場合なども対象となります」
――先日、テレビで放送された映画『アナと雪の女王』のエンディング改変がネットで賛否を呼びましたが、こちらも対象になりますか?
「そうですね。こちらもモニタリング調査を行った上で、炎上と認められれば対象です」
ほかにも、正確性を欠いた記事が見つかり、その運営方針が問題視されて閉鎖を余儀なくされた医療情報サイトのような「まとめサイト」による問題も対象になるといいます。
人件費やおわび広告費も補償
――炎上による被害の補償は、具体的にどこまでされるのでしょうか?
「保険による補償内容は2つに分かれています。
ひとつは炎上に対して補償するもの。炎上原因の調査や、炎上にどう対応した方がいいのかについてのコンサル費用になります。具体的には、殺到する問い合わせに応じるためのコールセンター設置や、そのための人件費、対応した社員の超過勤務手当などです。
もうひとつは、メディア対応に対して補償するものです。具体的にはコンサル費用と、記者会見や謝罪広告などの費用です」
――資料によると、今回の「ネット炎上対応費用保険」の保険料は年50~60万円程度で、保険金の限度額は1,000万円とありますが、通常、炎上による被害額はいくら程度になるのでしょうか?
「炎上すると、平均で1ヶ月300万円の損害があると言われています。大体3ヶ月で収束に向かうと言われていますので、総額900万円ほどになると思います」
この限度額は、要望すれば設計次第で引き上げも可能とのこと。
初日から数十件の問い合わせ
――保険への反響は現在いかがですか?
「全国に支店を持っていますので、お問い合わせ総数をすぐにお答えできないのですが、本社だけでも発売開始から数十件のお問い合わせをいただいております」
また、同社広報担当は「従業員を多く抱える大企業、かつBtoCのビジネスを行っている企業の方が特にネット炎上のリスクが高い」とし、炎上に対しては「早期検知と迅速な対応が最も重要」と言います。
もはや未然に防ぐことが困難なネット炎上だからこそ、被害が拡大する前に手を打つことのできるこの保険が、企業のリスクマネジメントのひとつとして役立つことは間違いなさそうです。