はじめに
栄養士や調理師が自宅で数日分の作り置き料理を作ってくれる出張作り置きサービスが、働く世代を中心にじわじわと広がっています。この「シェアダイン」を仲間とともに起業した井出有希さんは、外資系の金融機関やコンサル会社で忙しく働くビジネスウーマンでした。
バリバリのキャリアママは、なぜ畑違いにも思われる出張作り置きサービスを起業したのでしょうか。立ち上げに至った経緯と、今後の事業ビジョンについて聞きました。
きっかけは子どもの好き嫌い
――シェアダインはどんな会社ですか。
井出さん: 食の専門家が一般家庭を訪れ、ご要望やお悩みを聞きながら作り置きを中心とした料理を提供するサービスです。食のスキルシェアを通じて、次世代に家庭料理を継承していくことも目的です。
起業したきっかけは、長男の好き嫌いでした。よく食べる子だった長男が、2歳を過ぎたあたりから突然好き嫌いが激しくなり、食べるものが限られるようになりました。
シェアダインの共同創業者の井出さん
工夫をすれば食べてくれたのかもしれませんが、共働きで忙しく、いつしか長男が好むメニューしか用意しなくなりました。料理を工夫する時間の余裕もスキルもなく、ご飯と代わり映えのないおかず2品だけが食卓に並ぶ。それが日常となりました。
――共働きの家庭では、よくあることのような気がします。
ある日ふと、この寂しげな食卓が、わが子たちが大きくなった時の“食事の記憶”として残るのかという思いがよぎりました。これでいいのか、このままでいいのかと、自分に問いました。
そんな時、同僚の飯田陽狩(現・シェアダイン共同代表)が、同じように子どもの食について悩み、解決するサービスを自分たちで作っていきたいとを語り始めました。その時、私たちは、食の専門家の知見をシェアする「スキルシェア」で、この問題を解決できないかと思い立ったのです。
シェアエコノミーは次の段階へ
――料理の外注ではなくて、あくまでスキルシェアなのですか。
そうです。近年、「シェアリングエコノミー」という概念が普及しました。使われていない資産やリソースを有効活用し、新たな価値を生む経済のことです。テクノロジーの進化によってインターネットを介したやり取りが普及し、こうしたサービスが拡大を遂げています。
シェアリングエコノミーの発祥は、2008年にサービスを開始した米国の民泊仲介サイト「Airbnb」といわれています。自宅を利用していない期間、あるいは使っていない部屋を、宿泊施設として貸し出すサービスです。インターネットにより、世界各地にある余剰空間を誰もが予約・利用することができるようになりました。
次に起きたのは、モノや労働力のシェアです。「メルカリ」に代表される中古品の共有や、クラウドソーシングがこの分類に含まれるでしょう。
そして今、シェアリングエコノミーは次の段階に進化しています。個人が持つ専門的なスキルをシェアするサービスが次々と生まれたのです。専門家の知識やスキルを買うことで、より豊かな人生を手に入れることができる、そうした世界が広がりつつあります。
シェアダインが提供するのも、個人や家庭の事情に合わせた食の専門家によるアドバイスや調理スキルです。共働き世帯が増え、ライフスタイルが多様化した現在、食卓に対する価値観もニーズも変わってきています。
私たちは、これまで母親だけに任されていた家庭料理や食文化の継承という役割を社会に解き放ち、専門家に気軽にアドバイスをもらえる社会にしたい。料理スキルのシェアリングサービスを通して、次世代に家庭料理を伝えていくことを目指しています。