はじめに

誕生日サプライズを例に考える

皆さんはニュースや雑誌の記事などで、「織り込み」という言葉を耳にしたことはあるでしょうか。「日本銀行の追加緩和は、すでにドル円相場へ織り込まれている」といった文脈でよく使われます。

「織り込み」とは、簡単にいうと「心の準備」です。たとえば、あなたの誕生日に周りの友人がそわそわしていたり、プレゼントの箱が友人のカバンからチラリと見えていたりすると、これからお祝いされるという予想がついてしまうのではないでしょうか。このような状況では、お祝いされたとしても驚きは半減してしまうでしょう。

実は、株価も市場参加者の心の準備ができていない場合に大きく変動します。突然明るみに出た企業の不祥事や事件、買収の発表などが典型的な例となります。

反対に、定期的な情報開示などにより市場参加者の心の準備ができている経営計画の達成度合いなどについては、正確な数値が発表される前から冷静に投資判断をする時間があり、株価は今後発表される情報を織り込みながら、比較的穏やかな変動になる傾向があります。

東京オリンピックのように数年前からその実施が明らかなものについては、あらかた織り込み済みである可能性が高いでしょう。誕生日の事例でいえば、友人から「あなたのサプライズを行う計画をずっと前から練っている」というネタバラシをされるようなものです。

「噂で買って、事実で売れ」

このように、織り込み済みの事象については、その内容が実現すると本来の方向感とは逆に相場が動く傾向があります。この傾向は「噂で買って、事実で売れ」という投資格言としても有名です(海外では buy the rumor, sell the fact と表現されます)。ポジティブな内容の噂が出た段階で株を買い、それが事実になった時に売るべきだという意味の格言です。

この格言に則ると、東京オリンピックまであと1年という状況では、たくさんの人がすでに東京オリンピック関連銘柄を保有しており、開催に合わせて売る準備に入っているかもしれないことが予想されます。

そればかりか、この格言通りに行動する投資家がいることを逆手にとり、オリンピックが開催される前に株式を売却する投資家も出てくる可能性もあるでしょう。したがって、東京オリンピック関連として紹介されている銘柄を今から買うということは、このような行動をとる投資家と逆行する行動といえ、比較的リスクが高いと思われます。

このように考えると、もはや東京オリンピックを投資機会とすべきではないとも思われます。しかし、東京オリンピック銘柄として認識されていない銘柄が突如、東京オリンピック銘柄として認識されることもあります。このようなタイミングを狙って、その銘柄に投資するという方法もあります。

オリンピックを投資機会にするには?

この方法は、今すぐに何かの銘柄を買ったり売ったりするというわけでもありません。あるシナリオが実現した時に素早く行動できるように“待つ”のです。

たとえば、翌年の春先に東京オリンピック開催期間中の気温が非常に高いことが予想される場合は、熱中症に有効な商品を販売する企業が突然、東京オリンピック関連銘柄として認識されるかもしれません。

また、予想以上の外国人観光客が開催期間中に訪れることとなった場合、電車だけでキャパシティを賄えないとなれば、バスやタクシーなどの交通機関にも予想外の波及効果がもたらされる可能性があります。

このように、「あるシナリオが実現したら、どの銘柄にポジティブ・ネガティブなことが起きるか」をシミュレーションしながら備えることで、市場の織り込みが始まる前に取引できる可能性が高まるでしょう。

ただし、このような投資のやり方はやや短期的なものになりがちです。長期投資志向で投資を行いたい場合は、今の段階から東京オリンピックが終わった後の日本や世界の情勢を見据えて投資機会を探っていくことをおすすめします。

<文:Finatextグループ 1級ファイナンシャル・プランニング技能士 古田拓也>

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