はじめに

病気や介護への備えはいくら必要?

老後は、病気や介護などで大きな費用がかかる可能性が高くなります。生命保険文化センターの「平成28年度 生活保障に関する調査」によると、60歳代における「直近の入院時の自己負担費用」の平均は、5日未満の短期入院でも9万9000円、61日以上の長期入院になると58万4000円と、かなり高いお金がかかるようです。もし先進医療を受けることになった場合は、さらに数十万円~100万円以上かかる可能性もあるでしょう。民間の医療保険への加入の有無や内容にもよりますが、老後にかかる医療費として100万円~300万円の備えがあると安心です。

また、家族の介護にお金がかかるリスクもあります。生命保険文化センター「平成30年度 生命保険に関する全国実態調査」によると、介護期間の平均は54.5ヵ月、平均月額は7.8万円、住宅改造や介護用ベッドの購入など一時的な費用の合計は69万円となっています。すべてを合計すると、7.8万円×54.5ヶ月+69万円=494.1万円。毎月の収入から介護費用が出せない場合、約500万円準備してあるとより安心ですね。

以上をふまえると、病気や介護に備えて600万円~800万円ほど取っておきたいですね。ご相談者様が65歳時点の貯蓄から800万円ひくと、2368万円。毎年64万円取り崩して生活した場合、約37年間暮らせる計算となりますが、より余裕を持った生活をするためには、検討されているとおり退職金の一部を運用するのが良いでしょう。

できるだけリスクを抑えた投資方法を選ぶ

長い老後を豊かに過ごすためには、一部の資産を運用しながら取り崩していく方法が適しています。

しかし、退職金といった多額の資産を株式や投資信託などに一気に投じるのは、おすすめではありません。長い老後だからこそ、時間分散をして、少しでもリスクを抑える工夫が必要です。そこでまずは、投資信託等を年間40万円まで非課税で積立できる「つみたてNISA」の活用をおすすめします。

<つみたてNISA>
もうされているかもしれませんが、基本はつみたてNISAを使った積立投資をベースにするのが良いでしょう。もし退職金から毎月3.3万円ずつ積立して、年利回り2%で運用できた場合、20年後には約973万円に(手数料は考慮していません)。積立期間中もいつでも売却可能ですので、前述の病気や介護等でお金が必要になった時に、必要な分だけ売却して活用できます。

投資にまわす金額をもっと増やしても良いと考えている場合は、つみたてNISA以外の課税口座で、プラスして積立投資信託を買い付けるのも良いですね。一般的なメガバンクの預貯金にただ置いていても、資産はほとんど増えません。

続いて、つみたてNISA以外の、リスクを抑えながら少しでも増やせる資産形成方法をお伝えします。

<個人向け国債>
ある程度のまとまった金額を、リスクの低い方法で増やしたい人に向いているのが、個人向け国債です。金利は2019年7月現在、0.05%と低いですが、この金利は最低保証金利です。一般的な預貯金よりは高金利ですので、一つの選択肢となるでしょう。


3種類ある商品は、固定金利・3年満期の「固定3年」、固定金利・5年満期の「固定5年」、そして市中金利に連動する変動金利の10年満期「変動10年」ですが、今買うなら断然「変動10年」です。今が最低保証金利のため、上がるしかありません。また、1年間は解約できませんが、1年経てば元本割れすることなく解約可能ですので、必要になった時に活用することができるのも良いところです。なお、利息は半年に一度受け取るタイプです。

<ネット銀行の定期預金>
ネット銀行に抵抗がない場合は、都市銀行より金利が高いネット銀行の定期預金を活用するのも一手です。たとえば、現在最も金利が高いA銀行では、定期預金(5年満期)の金利が0.25%と、都市銀行の10倍以上。ネット銀行も預金保険制度に加入しており、万が一の場合でも、都市銀行と同じく元本1000万円まで補償されるので安心です。

<銀行の退職金運用プラン>
銀行には短期間、高金利で提供する退職金運用プランがあり、それを活用するのも良いでしょう。しかし、短期間の高金利が終わると、一般の金利水準に落ちるため、ほったらかしにしているとその後は増えません。また、銀行の担当者からの誘いに乗って、投資信託など別の金融商品に手を出してしまう危険性もあり注意が必要です。

まとまったお金が手に入ると、一括で運用資金にすべきと考えがちですが、そんな必要はありません。少しでも金利の高い預金を活用しつつ、一部の資金を少額ずつ積立投資にまわして、長い老後を豊かに過ごせるように資産形成を続けてくださいね。

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