はじめに

内部昇格でも高倍率の4人とは?

この5人以外の15人は、役員報酬ランキング上位に登場するほどの報酬はもらっていないけれど、従業員の平均給与よりはかなり多くもらっている、ということになります。

15人の内訳は、オーナー系の役員が11人に対し、雇われ役員が4人。オーナー系が多いのは事実ですが、雇われ系も意外といます。

まず11位の金川千尋氏。御年93歳、信越化学工業のトップとなってすでに30年近くなる、日本を代表する署名経営者の1人ですが、創業一族でもオーナーでもなく、内部昇格でトップに昇り詰めた人です。格差は基本報酬+賞与だと46.73倍、総額だと82.14倍となっています。

14位の大東建託の熊切直美・前社長(同44.45倍、49.39倍)、16位の東京エレクトロンの河合利樹社長(同40.33倍、72.72倍)も内部昇格組です。

19位の賀賢漢氏(同37.23倍、59.90倍)は、フェローテックホールディングスの事業統括担当副社長。代表権も持っています。1993年入社ですから、あちこちの会社を渡り歩く外国人プロ経営者ではなく、内部昇格組です。

フェローテックは半導体製造に使う真空シールで世界シェア6割を握る会社で、賀氏は同社の中国現地法人の責任者。社長の山村章氏の1.6倍の報酬です。

格差は会社の将来を映す鏡?

トップの報酬は従業員のモチベーションに少なからず影響を与えます。オーナー社長の場合は、その会社のリスクを丸ごと引き受けているわけですから、従業員や投資家もトップが得るリターンに寛容になります。

問題は、もはや株は手放していてオーナーではなくなっているけれど、トップの座は世襲を続けている会社です。業績が良ければ問題はありませんが、業績が悪いのに世襲のトップが従業員に比べて著しく高い報酬を取っている場合は、従業員の理解も、投資家の理解も得られません。

数年前ですが、この東京商工リサーチの役員報酬調査で、突然歴代トップに躍り出た経営者がいました。会社は大赤字。しかも、その経営者が巨額の報酬を得ていなければ黒字だったのです。

この経営者はその会社の株をほとんど持っていなかった、つまりオーナーではなかったのですが、父親がその会社の創業者だったので世襲でトップの座に就き、40年間も君臨し続けました。

株主が納得するはずもなく、後に株主代表訴訟が起きましたが、従業員はどう思っていたでしょうか。よほど労働組合が強い会社でない限り、従業員が声を上げることはできませんし、そもそも労組が強い会社でトップが無分別に高い報酬を得るという現象は起きません。

従業員のモチベーション低下は、すぐに直接業績に影響を与えるわけではありませんが、じわじわと会社をむしばみます。トップと一般の従業員の収入格差が大きいと即、従業員のモチベーションが下がるわけではありませんので、格差だけでなくその中味も見て、投資先・取引先・就職先としての会社の将来を占ってみてはいかがでしょうか。

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