はじめに

税制優遇を受けながら老後のための資産形成ができるiDeCo(個人型確定拠出年金)の加入対象が2017年に拡大。これを受けて2017年2月11日(土)、「資産形成・iDeCo 1DAYスクール」と題するイベントが開催されました。

金融機関や運用会社から投資の専門家が集まり、iDeCoや老後の資産形成について語られたセミナーの中から、アセットマネジメントOne株式会社でクオンツ運用担当ファンドマネジャーを務める檜原史一氏による「はじめませんか、『じぶんらしく生きるプロジェクト』〜長期的な資産形成のご提案〜」と題した講演の内容をご紹介します。


定年後の人生を充実させるには資金が必要

檜原氏: 本日は「はじめませんか、『じぶんらしく生きるプロジェクト』」と題して、自分らしく生きるうえで投資による長期的な資産形成がいかに重要な役割を果たすかということと、こうした目的に沿った運用とはどのようなものかということについて、お話させていただきます。

まず簡単に自己紹介をさせていただきます。私たちアセットマネジメントOne株式会社は、2016年10月1日に、DIAMアセットマネジメント株式会社、みずほ信託銀行株式会社の資産運用部門、みずほ投信投資顧問株式会社および新光投信株式会社の4社が統合し、新会社として発足した運用会社です。親会社にみずほフィナンシャルグループと第一生命保険があります。

私は旧4社のうちDIAMアセットマネジメントの出身で、合併話が浮上したときはいったい何が起こるのかとドキドキしたものですが、実際は粛々と合併が進み、スムーズにスタートできました。私はクオンツ運用担当のファンドマネジャーを務めていますが、クオンツというのは一般的に馴染みのある言葉ではありませんので、クオンツ運用の手法について簡単にご紹介します。

運用の手法やスタイルにはさまざまな分類の仕方がありますが、最も一般的な分類のひとつに「クオンツ運用」と「ジャッジメンタル運用」があります。皆さんが一般的に運用に対してお持ちのイメージはジャッジメンタル運用かと思います。ファンドマネジャーが知識や経験に基づいて、場合によっては相場勘やセンスといったものも含めて投資判断していくのがジャッジメンタル運用です。

一方、私が手がけるクオンツ運用は、統計学や数学を活用し、定量的な判断に基づいて運用するスタイルです。

「じぶんらしく生きる」というのが本日のテーマですが、なぜ唐突にこんなことを言い出したかというと、投資を行ううえでは、その目的を具体的に設定するのがとても重要だからです。投資の目的は、自分のやりたいことを実現するために必要な資金を貯めることなので、投資を始める前にまずは実現させたいことと、そのために必要な金額を具体的に想定していただきたいのです。

この場合、多くの人は定年退職後を想定することになります。現役時代は忙しくてやりたいことを後回しにしていた人も、定年後には時間に余裕が出てくるからです。やりたいことができる時間を手にしたときにどうしたいのか、それにはいくら必要なのかを、しっかりとイメージしていただくことが大事です。

というのも、「定年前にやっておけばよかったこと」を尋ねたあるアンケート調査によると、約半数の方が「退職後の生活に心配しないだけの資産形成」と答えています。せっかく時間的余裕を手にしたのに「時間はあってもお金がない」あるいは「時間はあってもやりたいことがない」という状態になってしまっては残念ですよね。人生を充実させるためにも、投資に目標を持つことは重要です。

投資とは、起こる確率を意識すること

私が日々の運用に取り組むうえでの出発点は、「投資と投機の違いを認識する」ことです。株や債券を買ったり売ったりするときは、「自分が取ろうとしている行動が投資なのか投機なのか」を常に意識するようにしています。

この「投資」と「投機」の違いについて、辞書などを見ると、投資は「利益を得る目的で、資金を証券や事業などに投下をすること」、投機は「偶然の利益をねらって行う行為」といった説明がされています。ただ、私の中での定義は少し違っています。

投資は「目標」を持ち、そのためにどのぐらいの利益を上げたいかを意味する「目標収益率」、そしてどのぐらいのリスク(振れ幅)なら許容できるのかという「目標リスク」を意識して行うことだと考えています。これに対し、投機とはまさしくギャンブルで、当たるも八卦当たらぬも八卦というようなものです。例えば不祥事で大暴落した株に対して「この会社は潰れるかもしれないけれど、ひょっとしたら大儲けできるかもしれない」とイチかバチかで買ってみる、というのが投機のイメージです。

これを言い換えると、投資とは、「確率分布」を意識して行うものだということです。いきなり難しい用語を出してしまって恐縮なのですが、考え方は決して難しくはありません。まずは以下のグラフをご覧ください。

左の図は「サイコロを振ったときの確率分布」で、サイコロを振ったときに1が出るのか2が出るのか、あるいは3か4か5か6か、それぞれの目が出る確率を示しています。サイコロはイカサマがない限り、1から6まですべて同じ確率で出現するので6本の棒がすべて同じ高さの棒グラフになります。

一方、右の図は、「コイントスを100回行ったとき表が出た回数の確率分布」です。表が出る確率も裏が出る確率も50%のコインがあったとして、それを100回振ったときに表が出た回数の確率を示しています。100回投げれば50回出る確率が最も高く、50回より増える、あるいは減るにしたがって確率は低くなっていくため、中央が高い山のような形のグラフになります。

なぜこんなグラフをいきなり出してきたかというと、投資にはランダム性が生じるからです。要するに、資産の値動きには確率的な変動が出てくるのです。例えば明日トヨタの株価が上がるか下がるかは確定しておらず、ここにランダム性が生じます。確率分布とは、このランダム性を数値化してとらえたものです。

ここで重要になるのは、取ろうとしている投資行動が右と左とどちらのタイプの確率分布なのか、それとも全くこれらとは異なるものなのかを意識することです。サイコロを振ったときのように均等な確率なのか、あるいはコイントスのように出現しやすいパターンとそうでないパターンがあるのかを把握する必要があります。自分が取ろうとしている投資行動は、どういう結果がどのくらいの確率で起きるものかということを常に意識することで、ギャンブルのような投機ではなくリスクを管理した「投資」たりうるのだと考えています。