はじめに

リスクとリターンが釣り合うのは難しい

先ほど、投資では目標収益率を設定しましょうとお話しましたが、具体的にどのくらいを意識すべきなのでしょうか。一般的には投資は老後の備えを目的にする人が多いので、年金制度の利回りが参考になります。目安としては2%から4%程度です。企業年金のひとつである企業型確定拠出年金(企業型DC)が想定する平均的な利回りは2%で、公的年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が長期的な目標としている数字は、ざっくり4%のイメージです。

これに対し、目標収益率と合わせて必要になる目標リスクについてはどうでしょうか。リスクとリターンは裏表の関係なので、目標収益率が高くなれば目標リスクも高くなる傾向があります。

よって、投資では、リスクが低くなれば収益率も低く、リスクが大きくなれば収益率も高くなる可能性があります。ですから2%から4%の収益を上げたいと思うなら、リスクも2%から4%くらいになるのがひとつの目安です。

ただし、現実に収益率とリスクが同じ数字で釣り合うのはかなり難しいことです。たとえば、過去25年間の日本株、アメリカ株、日本債券、アメリカ債券のリスクとリターンを計算すると、ちょうど同じ数字で釣り合っているものはなく、多くはリスクの方が収益率を大きく上回っています。要するに、2%から4%のリスクを取って2%から4%の収益を上げるのは、簡単ではないのです。

日々投資信託を運用する我々ファンドマネジャーは、一般的に、とったリスクに対してどのくらいリターンがあげられたかで評価されています。4%の収益率を4%のリスクで達成したファンドマネジャーがいれば、かなり褒められるパターンになります。

一方、4%の収益率を2%のリスク、つまりとったリスクの倍のリターンを上げたファンドマネジャーは、非常に優秀だと評価されます。それぐらい難しいことなのです。

リスクとリターンを釣り合わせるだけでも相当難しいのですが、どうすればそこに近づけるかというと、特別な方法はありません。唯一できることは、「分散」に徹底的にこだわることだけだと思っています。市場環境は刻々と変化するので、常に将来のことを当て続けるのはどんな優秀な専門家であっても不可能です。ですから、分散を図ってリスクに備えることが、結局は最も有効な方法だと考えます。

優秀ファンドも普通ファンドも日々の値動きは同じ

一般的に分散する対象は2つあって、ひとつは「時間軸の分散」、もうひとつは「投資対象の分散」です。時間軸の分散とはドルコスト平均法とも言われる積立投資のことです。一括で投資するのではなく毎月一定額を積み立てていくことで、購入タイミングを分散するわけです。なおかつそれを長期間続ければ、市場環境の変化に対する心理的な恐怖を緩和することもできます。

一方、投資対象の分散は、例えば株だけでなく債券も一緒に買う、あるいは日本の資産だけでなく海外の資産も買うというふうに、複数の対象に投資することです。投資ではこの2つの観点が非常に重要です。

老後のための資産形成には長期投資が必要になりますが、これは一筋縄ではいかない面があります。

たとえば、収益率もリスクもともに4%で運用されたファンドがあったとします。これは先ほどもお話した通り、収益率とリスクが釣り合う優秀なファンドです。このファンドで、1年間365日のうちプラスになった日を一定の仮定のもとで数学的に計算すると何割あったかというと、52%です。半分をわずかに上回っているだけ。優秀なファンドのはずなのに、ちょっと期待はずれな数字ですね。

一方、収益率が4%でリスクが2%のファンドだった場合はどうでしょうか。取ったリスクの倍のリターンを上げた「超」優秀なスーパーファンドですが、1年間のうちプラスになったのは55%。残りの45%くらいはマイナスになると推計されます。世界的にトップレベルのファンドを保有していても、1年のうち45%はガッカリさせられるわけです。

それでは収益率4%リスク8%の「並み」の成績のファンドの場合はどうでしょうか。それでも、年間で51%がプラスになっています。

この3つのファンドの成績は年単位で見ると大きな差が出てくるのですが、日々のペースで見るとあまり違いがないのです。人間はプラスのイメージよりも、マイナスイメージの方が印象に深く残ります。このため、長期的には良い成績を残すファンドであっても、毎日値動きを追いかけているとガッカリする局面が多くなってしまいます。

我々ファンドマネジャーは、日々この「ガッカリ」と戦っていると言っても過言ではありません。当然ながら毎日マーケットを見ているので、結構な頻度で「ガッカリ」に直面するわけです。どんなに良い戦略で投資を行っていたとしても、100日のうち45日は負けてしまうのですから。

いろんなファンドマネジャーの投資行動を見ていても、想定されるイベントとそれに対する値動きを的確に予想して、それを見越した投資ができているにもかかわらず、日々の値動きに耐えられずポジションを閉じてしまうことはよくあります。放っておけば利益をあげられたのに、日々の値動きに一喜一憂してしまったばかりに取れるはずのリターンを逃してしまうのです。

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