はじめに
価格を変動させる要因まで分散して投資する
プロでもこの状態ですから、個人投資家が毎日心配して値動きをチェックしなければならないようなファンドに投資しては、長く持つことが難しくなります。そのため、安心感を持って長期保有できる商品に投資することが重要になります。
そのような商品の条件は2つあります。ひとつはしっかり稼いでくれるファンドです。2%なら2%、4%なら4%と、取ったリスクと釣り合うだけのリターンをあげられるファンドであることです。
そしてもうひとつは、大きく下落しない仕組みを持っているファンドです。
しばらく放っておいたらファンドの価値が暴落していたのでは話になりませんね。大きく下落しないためには、先程お話した通り分散させることが重要です。
ただし、やみくもにたくさんの資産を買えばそれで分散の効果が得られるというわけではありません。同じような値動きをする対象だけに分散投資をしていても、下落局面ではそろって下落するので意味がありません。投資対象を分散する場合は、相関性が低い資産を組み合わせる必要があります。投資の世界でいう相関とは、どのくらい似た値動きをするかというのを表す指標です。まったく同じ動きをしている場合、相関は1となります。逆にまったく逆方向に動く場合は相関がマイナス1となります。数字の絶対値が大きくなるほど、似た値動きをするということになります。
たとえばトヨタと日産は、同じ日本の自動車メーカーであるため相関性が高く、似たような値動きをします。このため両社の株を持っていても、分散の効果は小さくなってしまいます。トヨタを持っている人が別の資産に投資しようとするなら、別の業種や日本以外の株、あるいは債券など株以外の資産を買わないと意味がないのです。
ただし、十分に投資先を分散していても、最近の市場環境では思うような分散効果を得られないこともあります。例えば昨年のアメリカ大統領選以降の「トランプ相場」でアメリカの株価は大きく上昇しましたが、日本の株価もドル円相場も一緒に上昇しました。経済がグローバル化している今、世界中の資産の値動きは、連動して同じ方向に動く傾向が強くなっています。こうした環境下では投資対象を分散させるだけではリスクを抑えることが難しくなっているのです。
そこで私が着目したのは「変動要因の分散」です。資産の分散は十分に行ったうえで、もう一歩踏み込んで価格を変動させる要因まで分散させるのです。先程お話ししたアメリカ大統領選や世界の景気、あるいは各国の金融政策など、世の中には資産価格に影響を与える要因が数多くあります。
たとえば国内債券は金融政策に強く影響を受けますが、外国の株式に強く影響を与えるのは景気です。こうした変動要因にも着目して資産の組み合わせや配分を考えることで、投資対象を分散するだけの場合よりも値動きを安定させる効果が期待できます。
これは食事の献立に例えるとわかりやすいと思います。例えばカレーとラーメンとカツ丼を食べて、栄養バランスが優れていると考える人はいませんよね。インド料理と中華料理と和食の3種類を食べているのにバランスは良くないのは、どれも似たような栄養素しか含まれていないからです。カレーは炭水化物や脂肪は豊富でもビタミンが足りない、だからサラダを追加するというように、内容まで考慮した分散を図ることで初めて栄養バランスが整い健康的な食事が実現するわけです。
投資の世界でも同じことがいえます。グローバル化が進んだ金融市場では単に資産だけを分散するのではなく、変動要因という部分にまで踏み込んで組み合わせや配分を調整することが重要です。どんな要因がどう動けば資産価格はどう変動するかを分析し、その観点から分散することに徹底的にこだわって運用を行っているのが、当社の投資信託「投資のソムリエ」です。私が商品開発から実際の運用までを担当し、こだわりをそのまま実現させた商品です。確定拠出年金向けと、一般の公募向けの2種類を展開しています。
繰り返しになりますが自分らしく充実した人生を生きるには、具体的に何をしたいかを見据えたうえで、具体的な目標を数値に落とし込んで投資に向き合うことが重要です。
ただし投資にはリスクが伴います。このリスクを抑えるために、我々は徹底的な分散にこだわっていただきたいと考えています。あまりリスクばかりを強調してしまうと怖くてスタートできないという方もいるでしょうが、投資を始めるとこれまでは見えなかった世の中の動きが見えてきて面白くなってくるものです。ぜひ楽しみながらチャレンジしていただきたいと思います。