はじめに

機関投資家がJT株を買わない理由

筆者は、市場と比較してかなり高い配当利回りを示している株式には、それなりのリスク要因があると考えます。なぜなら、それが本当にお得な配当利回りであれば、機関投資家が見逃すはずがないからです。多額の調査費を掛け、アナリストを多数擁するはずの機関投資家がJTのような大型銘柄をチェックしていないということは考えがたいでしょう。

JTのように株価が下がっているにもかかわらず、配当利回りが上がる場合を考えてみましょう。この場合、配当利回りの増加は利益の成長に基づく配当の積み増しではなく、株価の下落による単純な配当性向の増加によってもたらされているという側面が強いです。

このような事情でもたらされる配当利回りの増加は企業の利益成長を伴わず、何もしなければ利益が減少してしまう可能性があります。そうすると、今の株価で配当利回りが7%であっても、1年後はそれ以下に低下するリスクがあります。

たとえ今の配当利回りが一見高くても、価格変動のリスクや配当が継続的に支払われないリスクが見合わなければ買いが入らないという状態に陥る危険性があるわけです。

現在、市場関係者の間ではESG投資、SGDs投資という考え方がトレンドになっています。これらの概念は環境・社会・企業統治ないしは、社会の持続的成長といったものを評価尺度にしたうえで、それに適合する銘柄をファンドに優先して組み入れ、運用する考え方です。

ESG投資、SGDs投資を推進する立場の主張としては、これらの基準を満たしている企業ほど、将来のパフォーマンスが高まるという点が挙げられます。実は、JTはそのトレンドと対立する会社とみなされているようです。

JT株投資に光明はないのか

ただし、「運用機関から除外されがちである」という要因は、どちらかというと需給ベースでの値動きであるため、実際の喫煙者の減少率を超えて安い価格がついている可能性も否定できません。

さらに、JTはESG・SGDsの趣旨に近い医療事業についても力を入れているとみられます。同社のIR資料によれば、2015年度の営業損益が23億円の赤字であった医療事業は継続的に成長し、2018年度に263億円の黒字にまで収益が改善しました。この金額は、JT全体の営業利益5,650億円のうち4.65%を占める水準です。

現状のところ、JT株が下落基調から脱出できず、配当利回りが上がっている背景には、たばこ主体のビジネスについて運用機関からの風当たりが強くなっているという要因もあるでしょう。

しかし、新たなビジネスの創出・転換により、「環境や持続的成長などに貢献する企業である」と機関投資家にアピールすることで資金がJTに戻り、株価の上昇をもたらす可能性もないわけではありません。

足元では配当利回りが高まっているという一連の報道もあり、いったんの反発を呈していますが、その水準がはたして“底”となるかは機関投資家やJTの今後の姿勢を注意深く観察していく必要があるでしょう。

<文:Finatextグループ 1級ファイナンシャル・プランニング技能士 古田拓也>

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