はじめに

電子マンガ関連銘柄も成長

業界トップクラスの電子マンガサイト「めちゃコミック」を運営するインフォコム(証券コード:4348)は、漫画村の利用度がピークであったはずの2017年度決算で堅調な業績を示しました。同社の決算説明会資料によれば、電子コミックサービスの売上高は12.4%増の202億円と、過去最高を更新しています。

インフォコム株価

同社は2017年の 7~9月あたりから海賊版サイトの影響を認識していました。そこで独占先行配信といった対応を実施し、これが奏功して過去最高の売上高となったと説明しています。

漫画村の閉鎖による業績向上が期待された2018年度の決算では、電子コミックサービスの売上高が前期比31.8%増の266.7億円となりました。漫画村閉鎖後の広告強化が業績向上に大きく寄与しており、インプレス総合研究所が言及した内容とも一致します。

最新の2019年度第1四半期(4~6月期)決算では、前期比34.7%増の77.2億円で、四半期ベースで最高売上高を更新しています。

インフォコムは、漫画村が取り扱えない作品を囲い込んで利用者の獲得を続け、逆境下で成長することができたといえそうです。そして、漫画村が閉鎖したタイミングで広告を強化することで、漫画村ユーザーや、スマートフォンで漫画を読みたいユーザーの受け皿となったのかもしれません。

漫画村は何をもたらしたのか

このように考えると、漫画村は人々にスマホでマンガを読む習慣をつけた側面もあるのではないかとも考えられます。元利用者は、漫画村の優れていた点について、次のように指摘します。

「漫画村のツールはとても使いやすかった。それまでスマホでマンガを読む習慣はなかったが、かさばらずにどこでも読めるスマホのほうが快適だと感じた。紙で持っているマンガであっても、漫画村で検索して読むこともあった」

特筆すべきは、紙で買ったマンガも、わざわざ漫画村で読むことがあったという点です。これは、マンガを無料で読みたいという価値を超えて、漫画村が単に使いやすいから使っていたことを意味しています。実際に漫画村の閉鎖を機に、電子マンガアプリでマンガを読むようになったといいます。

一方で、元・出版社の社員はやや複雑な心境のようです。

「出版社側の人間としては、労力をかけて作ったコンテンツが違法に流されることに憤りを感じざるを得ません。一方で、マンガはコンテンツの囲い込みが強く、購入しないと作品が自分に合っているのか判断しづらいということもあるのかもしれません」

コンテンツそのものが広告になる時代

漫画村の利用者にとっては、同サイトが閉鎖することは「有料化」ともいうべき事態です。しかし、漫画村閉鎖後に電子マンガの売り上げや市場規模が増加しているのは、お金を払っても読者に読みたいと感じさせられる良質なコンテンツを出版社が提供できている証拠です。漫画村を通して良質なコンテンツの存在を人々に認知させたという可能性も否定できないでしょう。

近年は、アニメ制作会社がYouTubeチャンネルを開設し、公式で過去のアニメをアップロードしたり、アーティストが新曲をまるまる一曲アップロードしたりする例もみられるようになってきました。広告としての広告ではなく、コンテンツそのものが広告として認識され始めているのかもしれません。

マンガについても、内容の味見ができるような施策を打つことで、潜在的な読者の興味・関心をひきつけることができるようになるのではないでしょうか。漫画村の行為は当然許されることではありません。しかし、漫画村の事件は電子マンガ市場において、ある種の“劇薬”として作用した面も否定できないでしょう。

<文:Finatextグループ 1級ファイナンシャル・プランニング技能士 古田拓也>

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