はじめに
なぜ「あと値決め」を導入したのか
ONDを運営するサンメレの多治見智高代表は「お任せで料理が出てくる店だからこそ、導入できた決済方法」と語ります。
同店で提供しているのは、1つ1つのメニューというよりも、お店でのトータルの体験。それに対して、利用客に料金を支払ってもらうビジネスモデルは、どちらかというと「コト消費」に近いと考えて、店のコンセプトを固めていったといいます。
「OND」で提供される料理
ターゲットは「ある程度、ごはんにお金を使うことをいとわない30~40代」(多治見代表)。しかし、ONDのようにコース料理のみを提供している高価格帯の店舗は、豊富な経歴を持ったシェフのいる店が大半。ONDの料理も、味については有名店に遜色ないという自信がある一方、スタッフの経歴という面では強気に出にくい不安もありました。
経歴や箔がない中で、どうすれば利用客が安心して来店してくれるか――。そう考えていた時に出合ったのが、「あと値決め」でした。
狙うは「高級店の門戸開放」
導入店舗にとってのメリットは、利用客の来店に対するハードルを下げられること。ネットプロテクションズの専光建志さんは、自らが責任者を務める新サービスについて、「行ってみたいけれど、価格のハードルがあったり、納得感のないモノやサービスを購入してしまわないかという不安に対して、利用者に一歩踏み出してもらうためのサービス」と説明します。
たとえば、家事代行の場合、実際に使ってみると便利だとはわかりつつも、支払う料金に見合ったサービスが受けられるのかという不安が、利用者には付きまといます。この点、「あと値決め」であれば、実際にサービスを受けてから、自分が納得できる対価を支払えば良いことになります。
これまでに導入している企業では、最低価格で支払う利用者もいるものの、最低価格を意識しながら、それよりも上の値段を付ける人もいるといいます。支払期限までに値決めしてくれるユーザーの比率は、全体だと80%を超えており、よほどでない限り90%を超えているそうです。
シェフとの会話も含めた、トータルのサービスで料金を決める客もいる
ONDの場合、最低金額と最高金額の幅は広く、7000~1万7,500円のレンジで支払われているようです。平均すると1万3,227円で、「ほぼ想定していたところでお支払いいただいている」(多治見代表)といいます。
がむしゃらにサービスを広げない理由
「キャッシュレスには事業者側のいろいろな思惑の部分があって、キャンペーンなしでも根付くのか、疑問の余地があります。明確に自分の生活が変わるという体験がないと、本当の意味では広がっていかないのではないでしょうか」。ネットプロテクションズの専光さんは、こう指摘します。
一方で、「あと値決め」の導入先をがむしゃらに増やそうという思いもないといいます。高品質で、顧客に向き合ったビジネスをしている企業でないと、運用が難しいと考えるからです。
ただ、逆の見方をすれば、これまでは試してみるには少しハードルの高かったモノやサービスが「あと値決め」を導入すれば、利用者の潜在ニーズを掘り起こせる可能性も秘めていそうです。
「ちょっと高級なものには、こういう後決めの価格設定のものが増えてくるかもしれない」(多治見代表)。ネットプロテクションズの新サービスは、日本人の価格に対する考え方に変化をもたらすでしょうか。