はじめに
10月4日に発表された米国の9月非農業部門就業者数(NFP)は、市場予想よりも弱い内容となりました。発表直後の為替相場の反応はドル売りでしたが、8月分の上方修正を加味すると、さして気にする内容ではないと思われます。
それよりも市場を驚かせた数値が、今回の雇用統計には2つありました。この2つのサプライズは今後の金融市場にどのような影響を与える可能性があるのか、そして、ひとまずサプライズを消化した形の金融市場が今後どのようなシナリオをたどりそうなのか、考えてみます。
失業率が50年ぶりの低水準に
サプライズの1つ目は、1969年12月以来、ほぼ50年ぶりの低水準となる3.5%まで下がった失業率でした。雇用者数の増加ペースが鈍化している一方で、予想外の失業率大幅低下を受けて、市場の解釈は分かれる結果となりました。
ファーストリアクションのドル売りで1ドル=106円61銭まで下落していたドル円相場は、ネガティブ一辺倒にはならず、107円台前半を回復しました。
もともと、10月1~3日の間に発表されていた米指標は市場予想よりも弱い内容のものが続いていたことで、短期的にドル売り・円買いポジションが溜まっていた可能性も高く、週末のポジション中立化が相場を底堅くしたのかもしれません。
ただ、注意しておかなければいけないことがあります。米ゼネラル・モーターズ(GM)で約4万6,000人規模のストライキが9月15日から始まっていることです。これは今回のNFP調査期間には入ってないと思われ、9月NFPは来月に下方修正される可能性が高いことは頭に入れておきたいところです。
平均時給が予想外の上昇率鈍化
もう1つの市場の驚きは、平均時給伸び率の大幅鈍化です。内訳を見てみると、全従業員ベースでは前月比+0.0%、前年比+2.9%、生産・非管理職労働者ベースでは前月比+0.2%、前年比+3.5%でした。
所得水準が高いと思われる管理職のレイオフ(一時的な解雇)、あるいは管理職の所得減少が響いた可能性があります。この傾向が続くかどうかはわかりませんが、これが特殊要因であった場合、来月発表される10月分の平均時給上昇率は反動増になる可能性があるかもしれません。
結局、米雇用統計の発表を受けた為替相場は、指標の解釈が分かれてしまったためか、ドル売りにもドル買いにも傾くことなく、最後はモミ合いに終始しました。一方で、10月に入ってからの弱い経済指標の公表を受けて、利下げに対する期待が盛り上がっていることから、米国債利回りは長期ゾーンを中心に低下し、米国株式指数はほぼ高値引けとなっています。
近年の傾向として、予定されているビッグ・イベント(相場に影響すると思われる指標や講演)が終わってしまうと、市場の目は次のビッグ・イベントに向いてしまい、過去のイベントは忘れ去られてしまう傾向があります。米雇用統計が終了し、すでに市場は翌週からの米中通商協議に目を向けているようです。