はじめに

市場の注目は再び米中通商協議へ

10月10~11日の予定で、ワシントンにおいて米中閣僚級通商協議が再開されます。

9月5日の劉鶴・中国副首相とスティーブン・ムニューシン米財務長官、ロバート・ライトハイザー米通商代表部(USTR)代表との電話会議で、10月前半に米中通商協議が再開されることが決まって以降、市場には楽観的なムードが広がってきていました。

中国は米国産の農産物(大豆、トウモロコシ、豚肉)を関税適用除外とし、輸入を再開する動きを見せてきています。ドナルド・トランプ米大統領も9月17日に「中国が米国産農産物の購入を開始した」と述べています。週次で発表される米農務省(USDA)発表大豆輸出販売合計も、米国産大豆の輸出が着実に増えてきていることを示しています。

大豆輸出

ところが、10月7日早朝(日本時間)に出てきたニュースで、米中協議に対する楽観は悲観へと変わりつつあります。そのニュースとは、関係者によると、劉鶴副首相が米国政府の要人に対して、中国の産業政策や政府補助金の改革に関するコミットメントを盛り込まない提案をする、というものです。

弾劾調査問題で手いっぱいのトランプ大統領の足元を見た中国側のこの姿勢は、トランプ大統領の逆鱗に触れる可能性があり、再び米中協議決裂が警戒されています。ただ、米中協議決裂は2020年の米大統領選でのトランプ大統領の再選を危うくさせる可能性も高く、米中両国の駆け引きには今後も注意が必要です。

筆者は以前から触れてきましたが、米共和党の強力な支持基盤である米国の農家は、トランプ関税に対する中国の報復(米国産農産物への関税と輸入停止)で苦しんでいます。American Farm Bureau Federationによると、米国の農家のこの1年の破産申請は過去最高だといいます。中国による米国産農産物の輸入再開によってトランプ大統領への支持が回復しそうな状況での決裂は、大統領自身の死活問題になりかねません。

昨年11月の米中間選挙以降、「トランプ大統領が2020年の大統領選で勝利したいと思うなら、最終的に中国と妥協せざるを得ない」と、筆者は述べてきました。この見方は今も変わっていません。したがって、目先の雑音に惑わされず、米中通商合意(妥協)後の相場を見据えています。

<文:チーフ為替ストラテジスト 今泉光雄>

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