はじめに

なぜ物価上昇が賃金に結びつかないのか

背景にあるのは対中関税でしょう。関税引き上げで中国製品が値上がりすることによるインフレは、ちょっと考えれば誰もが思いつく話です。

第1弾、第2弾の段階では米国経済に与える影響が軽微にとどまりインフレが高まりませんでしたが、第3弾の2,000億ドル分が今年5月から25%になり、それがさすがにジワリと効いてきているのでしょう。

今後ますます関税が上がったり発動されたりする可能性があります。その分の価格転嫁が進む来年には、誰も想像していなかったインフレ率になるかもしれません。

本来、景気が弱ければインフレ圧力も弱いものですが、今回のインフレは「貿易戦争」という、景気とまったく関係ない要因によって引き起こされているものです。労働市場のタイト感がピークアウトし賃金上昇率が鈍ってきても、景気サイクルとは関係ない関税による物価上昇は起こりえるのです。

市場では、FRBの追加利下げを期待する向きが大宗を占めています。年内、あと1回くらいの利下げはあり得るとしても、その先はジワリと高まるインフレ懸念がFRBの金融政策の余地を狭めるリスクには注意が必要です。

<文:チーフ・ストラテジスト 広木隆>

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