はじめに

私はこれまでがんの早期診断・検診の研究に取り組んできました。「がん」というと、ちょっとひいてしまうという方も多いと思います。

「がんは怖い病気で、とにかく早く見つけて治療してしまえばいい」とお考えになられる方も多いと思いますが、そうとも限らないのです。以前、私が検診で見つけた肺がんの患者さんは、早期だったのですが手術を拒否されていました。

ご親戚の方の説得もあり、結局手術を受け、無事に退院されました。しかし、退院半年後に脳梗塞を発症し一命はとりとめたものの、意識は戻りませんでした。結果的に、この方にとって手術を受けたこと、ひいては検診を受けたことに意味があったのか?考えされられるケースです。このように「がんだから○○」と簡単に決められるほど、単純ではありません。

「がん」という言葉を聞くだけで、ちょっと引いてしまうという人も多いと思います。特にネットの世界では、がんに関してのトンデモ情報があふれているので、さまざまな誤解をされている方も多いでしょう。

たとえば、「がんになったらもう働けない」「がんは遺伝する」「がんになっても、ブラジルの奥地で発見された○○を飲んで免疫力を高めれば手術しないで治すことができる」などなど。専門家からみると、まったく馬鹿げた情報ですが、信じてしまう人もいます。


統計学は健康管理に活用できる

2013年のベストセラーに、『統計学が最強の学問である』(西内啓著、ダイヤモンド社)という本がありました。統計学は、データを分析し、グラフ化し、傾向を評価する学問です。資産運用を図ろうという方には、馴染みのある分野だと思います。

この統計学は、健康管理についても活用できます。単純に「健康に良いことは何でも、できる限りやる」というのはなかなか大変です。まずは統計指標に沿って、何が起こりやすいのかをよく見極めて、それに応じた対応をした方が効率的です。

厚生労働省の統計調査の中に、患者調査というものがあります。全国の病院や診療所で、1週間に何歳の人が何人、どんな病気で外来を受診したか、または入院したかを集計し、1年間だとこのぐらいの数になると推計したものです。年齢は15~34歳、35~64歳、65歳以上というくくりでまとめられています。

さすがに15歳の人はこの記事を読んでないと思いますので、今回は35~64歳について見てみましょう。この世代が外来を受診する理由で一番多いのは高血圧です。2番目は腰痛。さらに、眼科疾患や糖尿病、上気道炎(風邪)と続き、6番目に登場するのが悪性新生物(がん)です。

予想どおりでしょうか。高血圧で外来受診した人は1,000人当たり約150人、7人に1人程度。腰痛は1,000人当たり約120人、8人に1人程度ですので、まあわかるような気がします。

1年間でどのくらいの人ががんになるのか

がんはというと、1,000人当たり約50人、20人に1人です。多いと思いますか、それとも少ないと思いますか。がんは「2人に1人がかかる病気」と言われますが、これは生涯の確率です。

ここに示したのは、たった1年間の確率です。1年間の間に、35~64歳の20人に1人はがんで病院にかかるということ。そう考えると、この数字を多いと感じる人が大部分ではないでしょうか。

さらに重要なのは、ここに挙げた病気に限ると、がんでは入院する人が圧倒的に多いことです。1,000人当たり30人もおり、おおむねこの年代の30人に1人ががんで入院するということを意味しています。

血圧が上がっても入院することはまずありませんが、がんの場合は外来を受診しただけで終わる場合が少なく、半数以上の方が引き続き入院しています。仕事がある中で入院・治療が必要となると、精神的にも金銭的にも負担が大きくなります。だからこそ、定期的にがん検診を受け、早期発見を心掛けることが大切なのです。

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