はじめに
院外バイトが生命線
教授といえば「白い巨塔」の財前教授のようにリッチな生活をイメージするかもしれませんが、あれは「奥さんの実家が太い」というラッキーなケースです。大学病院からの本給は昔も今もさほど変わりません。同世代の公務員並みですね、他の収入源がなければ「白い巨塔」に登場した里見先生のような地味な生活レベルとなります。よって「教授の肩書を生かしたバイト」で稼ぐことによって、実質的な教授の年収が決まります。たいていの大学病院では、「研究日」と称して「週1日の外病院アルバイト」が公認されていますので、佐藤先生は民間病院で外来と胃カメラのアルバイトをしています。
昔は製薬会社主催の講演会や薬のパンフレットに推薦文を書くだけで「〇十万」みたいな話もありましたが、昨今はすっかり厳しくなりました。美味しい案件は主任教授どまりで、佐藤先生のところまで廻ってこないようです。その他にも、「博士論文の指導料」とか「医局員の結婚式スピーチ」とかで〇十万…なんて時代もありましたが、近年は博士号を欲しがる若手医師も減る一方、派手な結婚式も珍しくなりました。患者の謝礼も、あったとしても商品券か最大でも数万円程度、ドラマ「ドクターX」のような札束は見たこと無いそうです。
という訳で、佐藤先生は教授になった今でも当直バイトをやっています。子供の教育費や、家のローンも残っているからです。医者の多い東京都内の当直代は安い(一晩3~5万円)ですが、医師不足の地方に行けば稼げます。効率的に稼ぐために、新幹線の距離で「三連休つぶして60万円」というアルバイトを引き受けることもありますが、五十代の体にはキツいそうです。学会や緊急手術で週末が潰れることも多いので、たまの休みは家でゴロゴロするだけで終わってしまうようですね。
終わらない住宅ローン、膨れ上がる教育費
佐藤先生の奥様は元ピアニストで、現在はピアノ教師兼主婦です。少子化でピアノを習う子供や謝礼も減る一方ですが、奥さんが「ピアノ2台を置ける防音室が欲しい」と世田谷区の高台に買った家のローン残債は、なかなか減りません。
上の娘さんは小学校から名門エスカレーター私立校だそうです。奥様の実家は開業医ファミリーで、お義父様が院長だった頃は羽振りもよく、孫の教育費を援助してくれたそうです。お義兄様に代替わりしてからは経営状態もイマイチで、援助は期待できなくなりましたが、そのまま名門校に通わせているそうです。父兄のお付き合い費用も、大変らしい。
下の息子さんは、私立中高一貫校から医大目指して浪人中だそうです。医大専門予備校に通っているので、学費が年200万かかります。その他、プロ家庭教師による数学と英語の個別指導に月20万円が必要ですが、奥様が「2浪されるよりマシ!」と契約してしまいました。予備校から「浪人生ならば10校は出願しなさい」とアドバイスされていますが、私立医大は受験料だけで5~6万円かかり、滑り止め私大に合格した場合は100~200万円の入学金を納入しなければなりません。私立医大に進学するならば、6年間で2,000~4,500万円の学費が必要です。
何年も海外旅行ができない今の生活に奥様は不満のようで、娘さんには「合コンするなら、開業しそうな科のドクターを狙いなさい」とアドバイスをしています。佐藤先生と出会った頃は「お金よりも知性のある男性に惹かれます」と、言ったそうですが…。住宅購入時には「駅まで車で奥様が送迎」という約束をしましたが、今は息子の塾送迎で忙しいそうで、佐藤先生は電動自転車で駅まで通っています。