はじめに

東京vsパリの3位争いに激化の兆し

今年の調査結果でもう1つ興味深かったのは、3位の東京と4位のパリのスコア差が縮小した点です。2015年の同時多発テロを境に両都市の順位は現在の状態に逆転したわけですが、
それ以前は激しい3位争いを繰り広げていました。今回スコア差が縮まったことで、再び3位争いが激化する可能性もあります。

この背景にある大きなトレンドが、アジアの都市の成長に減速がみられる一方、欧米の都市が復権しつつある状況です。

欧米アの都市力
アジアの都市の成長が減速する一方、欧米の都市は復調

本調査が始まった2008年は、リーマン・ショックが発生した年。その影響が欧米の都市を直撃する一方、中国政府が巨額の財政出動を行い、高い成長率を維持したことで、中国への依存度が高いアジアの都市が大きく伸長しました。しかしそれから10年以上が経過し、中国経済にも減速がみられるようになったのに対し、欧米は金融危機の影響を脱し、都市の力も復権し始めているというわけです。

こうした流れの中で、東京も経済分野の減速が顕著になっています。本調査では、東京のGDP(国内総生産)は約8,000億ドルと2位を死守しているものの、GDP成長率は年率1%を切る水準で48都市の中では38位と低迷。法人税の高さや英語が話せる優秀な人材の確保が困難な点なども、尾を引いた格好です。

一方、パリは研究者数が下落するなど人材の流出がみられたも半面、同時多発テロによって落ち込んでいた観光が復活。トータルの都市力では横ばいをキープしました。

東京に必要な政策は何か

都市としての東京を再び活性化させるためには、何が必要なのでしょうか。折しも、今年の都市力ランキングで9位に入った香港では、反政府デモが繰り広げられています。

先行きの不透明感から「香港のパワーがダウンする可能性があり、アジアの都市の位置づけが変わるかもしれない。そのパワーをどう持ってこられるか。特化型で何らかの施策が打てれば、成果を得られる可能性があります」(市川宏雄・明治大学名誉教授)。

今回の調査結果で、東京は6つの分野で偏差値に大きな差がない「バランス型都市」だったのに対し、1位のロンドン、2位のニューヨークはそれぞれ特定分野の偏差値が突出している「特化型都市」でした。トップ10の都市のうち、バランス型は東京のほか、ベルリン、シドニーだけで、世界の有力都市は特化型の傾向を強めていると考えられます。

前述のように、東京の経済力は低下傾向にありますが、一方で上昇基調にあるのが文化・交流分野です。「外国人訪問者数」は右肩上がりで、最新ランキングでは5位。「食事の魅力」では、世界のトップ1,000のレストランのうち89軒が東京に存在しており、ニューヨークやパリを差し置いて1位にランクインしています。

トップ1000レストラン
世界のトップ1,000のレストランのうち89軒が東京に存在

ただ、「ハイクラスホテル客室数」が少ないのに加えて、「ナイトライフ充実度」は13位に甘んじています。「ニューヨークの場合、週末は一晩中、電車が走っています。夜も経済活動が行われるので、都市に対する効果は大きい」と、市川名誉教授は解説します。

「東京五輪の開催が決まってから、インバウンドが増え、羽田空港の国際化も進み、ホテルも増えましたが、新幹線や高速道路といった前回の五輪時ほどの強烈なレガシー(遺産)がない」と指摘するのは、森記念財団 都市戦略研究所の竹中平蔵所長です。

五輪の開幕が半年余り後に迫る中、文化・交流分野で強烈なレガシーを創出することができるのか。アジアの都市間競争に変化の兆しが生まれつつある状況下、どれだけ知恵を絞れるかが今後の東京の行方を左右しそうです。

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