はじめに

処分を望まない被害者もいる

――社内の相談窓口に相談した後、一般的にはどんな対応がとられるんですか?

まずは、相談者の訴えの事実確認です。行為者に対してヒアリングをかけ、被害者と行為者の言っていることが一致すれば事実が認定され、処分の対象になるかどうかを判断します。

ただ、ここで大切なのは、解決策は会社が勝手に決めるのではなく、相談者は何を望んでいるか?ということです。担当者は相談者に対し、この相談によって不利益を受けることはないということを伝え、行為者のヒアリングの実施に対して許可を得る。困っている状況を聞いて、会社としての対応の方針を伝え、望んでいる解決法を聞くことが大原則です。

――対処の方法を被害者に聞くんですか?

話を聞いて、自分が置かれた状況を理解してもらいたいだけという人がいれば、行為者に注意してほしいという人もいます。顔を見るだけで精神的にきついので異動をしたいと望む人がいれば、上司本人への注意や懲戒処分を望む人もいる。希望どおりにできるかどうかは別の話ですが、相談者が何を望んでいるのかは聞く必要がある。解決を急ぎすぎて、会社が勝手に動いてはいけないんです。

ハラスメントの担当者の役割は、解決をすることではなく、あくまでヒアリング。被害者の主張を正確に聞き取ることが大事なんです。担当者が「解決しなくては!」となって前のめりになって、どんどん動いてしまうこともあるのですが、それは絶対に避けるべきです。

――パワハラ上司に直接、言わないでくれということもあるんですか?
 
珍しくないですよ。仕返しを恐れてそう言うこともあれば、この先、職場で気まずい思いをするのはイヤだからという人もいます。

――そういう場合はどうするんですか?

直接言わないでほしいと言われても、明らかに問題があったら、会社としても看過できません。その場合は、個人が特定できないようさまざまなやり方でアプローチをします。

全社的にアンケートをとったり、研修を実施して本人に気づきを与えるとか。あるいは、労務相談という形で人事が社員一人ひとりと面談をするとか。被害の訴えがあった事実を隠しながらも、行為者の行動を止めるための手立てを講じるわけです。

能力が高い人がパワハラを行う?

――なるほど。

ただ、難しいのは、今の時代にパワハラをする人というのは、能力の高い人が多いんですね。昔は十分な能力がなくても、役職についている人がいて、肩書きだけをパワーにパワハラをする人は珍しくありませんでした。

——そもそも、いま、仕事ができない人はポストにつけないですからね。

パワハラで処分される人は、たいてい抜群の営業成績をあげてきたとか、ものすごい頭脳明晰とか、何かしらの強い力を持っている人なんです。職務権限というパワーだけでなく、本来的にヒューマンパワーを持っている人ではあるんです。

――実力があるからこそ、パワハラをする。

能力を持っている人がパワハラをしているので、会社としては、そんな人物を切ってもいいのか? 貢献している人を処分して、会社のダメージはどうなるんだ? 会社に貢献している上司と会社に貢献していない部下、どっちをとるんだ?という選択になってしまう。結果、パワハラの行為者である上司への処分が甘くなりがちなんです。

――最悪だ。

ハラスメントの解決には、「能力」と「行為」を分けて考えることが大切なんです。が、組織は本当にこれができない。会社の人間だけで判断するのは危険なので、外部の専門家に入ってもらったほうがいい。事実を判断してもらい、法に照らし合わせて明らかに不当な行為が確認されたら、それに応じた妥当な処分とはどの程度のものなのか、意見を踏まえたうえで判断していくのが大事ですね。組織の判断はブレますから。

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