はじめに

本命の政策は一時的な低税率

とはいえ、28兆円の資金に対して1,130億円というのはわずかな額です。トランプ大統領がほしいのは雇用という成果ですから、できればアップルには28兆円全額を使ってアメリカ産業に本格的な投資を行ってほしい。

そこで重要になるのは“減税”です。トランプ大統領はすでに法人税の大幅な減税政策を打ち出しています。海外よりもアメリカで稼いだほうが税金が安いという状態を作り出すことが、なによりも効果的であるということを、ビジネスマン出身の大統領としてよくわかっているのです。

それに加えて、アップルが固唾をのんで見守っているのは特例法です。トランプ政権は一時的に海外からの資金移転に対する税金を下げる減税政策を検討しているというニュースが流れています。

グローバル企業にとっては、この特例法が成立したときがチャンスです。海外に分散してきた利益を、アメリカの投資家に対して正々堂々と配当金などのかたちで戻すことができるのです。

そしてこれはアメリカ政府にとっても悪い話ではありません。アップルの28兆円だけでなく、マイクロソフト、アマゾン、グーグルなど世界中で稼いでいる巨大なIT企業がこれまで上げてきた資金が、すべてアメリカに戻ってくることになります。

資金が戻ってくれば、それらの企業が投資しなくても、投資家の手を経てなんらかの投資に必ず資金が使われることになります。投資家にとってみればお金を手元に寝かせておくことほど、もったいないことはないのですから。

合理的に考えれば、グローバル企業が過去に海外で上げた利益への課税を諦める代わりに、巨額な資金をアメリカに還流させて投資を促すというアメリカ政府の政策は、トランプ政権のゴールと一致しています。そして恐らく、その方向に政権は舵を切るはずです。

アップル幹部はそのタイミングが来るのをじっと息をひそめて待っているのです。

この記事の感想を教えてください。