はじめに
iPhoneのアップルがアメリカ国内での先進的なものづくり支援を目的に10億ドル(約1,130億円)のファンドを作ると発表しました。「アメリカ製造業の雇用創出を目指す」と言います。ほかにもiPhoneの生産委託先である鴻海精密工業が新しい工場をアメリカに建設する動きもあります。
その背景にあるのはドナルド・トランプ大統領の存在です。アメリカに雇用を生むことを政策の第一目標とするトランプ大統領は、海外に利益を移転するグローバル企業に厳しい目を向けています。そのせめぎ合いの中心にいるアップルの状況をまとめてみましょう。
アップルの業績は転換点に
アップルが発表した直近の業績(2017年1~3月期)は増収増益で5%の売上増でした。とはいえ不安要素はいくつかあります。一番の不安はiPhoneの販売台数が前年同月比1%のマイナスだったことでしょう。
iPhoneの売上については、単価の高い大画面機種への買い替えが進んだ関係で増収となったのですが、台数が減少になったということは世界のスマホ市場が飽和してきた事実を如実に示しているわけです。
そして実は大画面機種に切り替わったことの反動が別の数字にも表れています。タブレットであるiPadの販売台数は、iPhoneよりもさらに厳しいマイナス13%減と明確に停滞しています。iPhoneの画面が大きくなったことで、わざわざタブレットを持つ必要がなくなってきたということです。
一方で、新機種のアップルウォッチは期待したほど伸びていません。今の成長を支えているのはアプリやiCloudなどのサービスですが、これらはアップル全体の13%の売上にすぎません。まだまだ小さいレベルです。
今、アップルは停滞を見せているのです。
金庫に眠る国家予算規模のお金
さて、ここからがおもしろいところです。それまで成長してきた企業が停滞すると、新たな領域に投資することで別の成長分野を見つけようと考えるものですが、アップルほどの巨大企業になると、そのような別の有望領域は簡単には見つかりません。
投資先が見つからないということで、アップル社内には巨額の資金が金庫に保管された状態になってしまいます。いわゆる手元資金が巨額になるのです。
その金額、なんと28兆円。メキシコや韓国の国家予算と同じレベルの数字です。もし投資に使われるとマクロ経済が大きく動く規模のお金が、使い道がないままの手元資金としてアップル社内にある。
その状況に目をつけたトランプ政権は、このお金をアメリカ国内で使うようにアップルに圧力をかけているのです。
投資を妨げるボトルネックは?
しかし問題は税金です。アップルの手元資金自体は巨額なのですが、もともと税金を逃れるために世界各国に所得を分散し、利益を増やしてきました。ですから28兆円の資金があるといっても、その93%は海外に貯め込まれた資金なのです。
それをアメリカに戻せば、巨額の税率で課税されることになります。だからお金はあっても巨額資金がアメリカ国内の投資に向かうことがないのです。
そこで妥協案として生まれたのがファンドの設立です。アップルが組成を表明したのは、アメリカ国内の先進的なものづくりを支援する目的の10億ドル(約1,130億円)ファンドです。
このようにファンドを設立することで、アメリカ国内の雇用を増やす役割を果たしているとポーズを示すことができます。
さらにアップル同様にアメリカ政府からの圧力を感じている生産委託先の鴻海精密工業が、アメリカ国内に工場を建設する際の資金としても活用できることになります。